「バカは風邪ひかないって言うのにねー。なーんでお前はぶっ倒れてんのかねー?」
頭の上でニヤニヤ笑う銀時にアッパーを食らわして、ついでに蹴りもお見舞いしてやった。すねをおさえてのた打ち回る姿はとても大人には見えない。
「イッテェェェェ!何しやがるコノヤロォォォォ!」
「うるせェェ!病人の耳元でわめいてんじゃねーよこのクソガキがァァァ!」
「クソガキィ!?クソガキとか言ってくれちゃいます!?どーみても魅力溢れる大人の男なのがわかんないかねェェェ!?」
「どこが魅力溢れてんだよ!大体見た目じゃねーんだよ!精神だ精神ッ!」
「精神も大人ですぅぅぅ!とっくに千歳こえてますぅぅぅ!仙人並みですぅぅ!」
「いや、そーじゃねーだろ方向」
「いーんだもーん、銀さん仙人だもーん」
ふーん、とか言いながらそっぽを向いた銀時。だからそこがガキなんだよといいたい気持ちを抑えて、背中をつんつんつっついた。なんですかクソアマァー、なんてすっげぇ可愛くない声で言われたけど、いちいちつっかかってると永遠に言い合いの渦から抜け出せないのでスルーすることにする。ちなみにこれはギャグじゃないよ。
「ね、今からさ、背中に字書くから。あててよ」
「は?なんで」
「いーから」
振り向こうとする銀時を無理やり前に向けて、背中に人差し指を立てる。
一文字目。 「『ば?』」
二文字目。 「『か?』」
「って、バカ!?何だとテメコノヤロォォ!」
「うーそうそ。今のはジョーダンだよ。ウォーミングアップってやつ?これからが本番!」
「うそつけェ!今の本気で書いただろォ!」
「だーからうそだってー」
「だからうそなんだろそれが!」
「だからうそだって……ってあれ?何か分けわかんなくなってきた。まーいいや。それよりそっち向いてよ」
つんつんとつつくと、ぶつぶつ文句を言いながらも後ろを向いてくれる。私はその背中にまた人差し指を立てて文字をつづった。
「『こ』」
「『わ?』」
「…」
三文字目。
三文字目を紡ごうとして1本線を引いたところで、私の手は止まってしまった。
「…なんだよ」
「…」
「何を考えてんのかしらねーけど…このまんまじゃ『こわ1』だぞ」
「…わたしは…」
「―――何がだよ」
顔の横に両手をついて覗き込んでくる。普段とは違う真剣な瞳に、何もいえなくなる。
…銀時は小さくため息をつくと、ごろんと隣に転がって布団に入り込んできた。まわされた腕がじんわりと温かくて顔を上げる。
「……クソガキはオメーだよ。ったく」
そういって、小さくキスをくれる。そのとき少しだけ、さっき食べてたプリンの匂いがした。
なにがって? あんたがいなくなることだよ。
いつか別れるときが来る、そうわかっているのに私は、そうなるまいと抗い続けている。こんなことを考えるのは私だけかもしれない、だけど。
(不安で不安で、仕方ないの。)
2008.04.06 sunday From aki mikami.