よどんだ色の空を仰いだ。空気は冷たい。
空気の入れ替えなんて本当はする必要ない。ただ普通に過ごすだけでこの空間は快適だ。…それでも、たまにこうしないと閉じ込められた圧迫感で体が潰れそうになる。
ホテルの窓は開かないことが多いけれど、ここはそうじゃなくてよかった。
するりと入り込んでくる、緩やかな風。色とりどりの宝石のような夜景を眺めていたら、空を飛んでいるかのような錯覚に陥った。
「If I were a bird…」
もし私が鳥だったら。
そんな想像無意味だとわかっていてそれでもしてしまうのは、きっと今がとても幸せだから。
人は幸せだと欲張りになる。
「…もし鳥だったら…どうするんですか?」
振り返るとそこにLがいた。人差し指をくわえてじっとこちらを見ている。
「…どうしよっか」
「I would leave here…なんて言われたら私、一生あなたのこと外に出しませんよ」
「そんなこと言わないわよ。それにL? 仮定法過去は起こる可能性がないから言えることよ?」
「……それはあなたが鳥になれるはずがないということであって、あなたには足がついているのだから私からにげることは出来ます」
「…逃げてほしいの?」
「とんでもないです」
「じゃあそういうこと言わないの」
む、と口を尖らせたLは、いきなり私に頭突きさながらで抱き付いてくる。
「ちょっ…L」
「…」
「ばか……私は鳥になりたかったわけじゃないのよ?…鳥だったら、Lに会えてないもん」
「じゃあそういうこと言わないでください」
「ごめんごめん」
Lは頭を私にすり寄せると随分きつい力で腰に腕を回した。そして小さく囁いたのは、「好きです」。
「…知ってるよ」
「は…私のこと好きですか?」
「うん」
と答えただけでは彼は納得しない。それは重々承知である。
「L」
「…はい」
「Even if I was a bird,」
「『たとえ私が鳥になったとしても』…?」
「I never leave here.」
「『私はここを離れたりしない』
「Because...」
「…『だから…』?」
「Don't leave」
「…?」
「私、あなたがいないと英語すらも喋れなかったのよ」
私のLに対する依存度の高さ。計り知れないそれの断片をのぞきこんだLは、少し驚いていたようだったが、…すぐに笑顔になって言った。
「…I love you.」
「…」
「If you aren't here, I will die easily.」
「Don't die…」
「……」
唇が重なった。
私たちはきっとこれからも、こんな関係であり続けるだろう。切れそうで切れない絆を、確かめあって生きていくだろう。
私たちの恋はそうして、愛へと変わっていく。
「I love you too.」
ぶっきら棒にしか伝えられないけれど。
「…愛してるわ、L」
「私もです…」
…もう一度唇を重ねた。口のなかに広がるのは、甘い甘いお菓子の味と、彼からの愛。
2006.11.17 friday From aki mikami.