02. 闇



今までとまったく同じ生活をしていたはずなのに、どうしてか、突然苦しくなる瞬間がある。みんなと一緒にいて楽しいはずなのに、どうしてか、そこにいてはいけない気になるときがある。


自分の部屋で明かりもつけずに外を眺めている。雲のせいで星すら見えない黒く淀んだ空が、私の心を更に陰鬱とさせる。心臓は痛覚を持たないはずなのに心臓が痛む気がする。…呼吸が苦しいと感じる。私が自分で自分の首を締めているだけだと言うのに。


こんな風に外を眺めるのは、一度や二度ではない。むしろ毎日かもしれない。


別に自分が不幸だなんて思っていない。いやなことがあったわけではない。逆に私はいい仲間に囲まれて、とても幸せだと想う。ただいい仲間に囲まれているからこそ感じる劣等感や焦燥感というものが必ずあって、皆のように卓越した能力が何もない私は、否が応でもそれを感じざるを得ない。


この真っ黒い闇を見ていると、いつか解けていってしまうんじゃないかと思うときがある。…何もできない自分はまるで闇のように、そこにただ当たり前にあって、特別に見られない、どんどんその存在を忘れられていく、そんな風になるんじゃないかと。みんなに気にされなくなるのが怖くて、必死に笑顔を繕っている自分。…弱くてどうしようもないな、と笑ってしまう。


私がこんな事を考えているなんて、一体誰がわかるだろうか。今だって、少し離れた広間からみんなの笑い声が聞こえてくるって言うのに。


耳を塞ぎたくなった。誰の声も聞きたく無いと思った。だから、私は自分の部屋を飛び出した。その瞬間、何かにぶつかった。


「…!」
「っ、たぁ…、なんじゃ、いきなり飛び出して来おって」
「す…師叔…」


どうしてここに?と言葉を発する前に、無理矢理部屋の中に押し込まれた。バタン、と扉が閉まって、また真っ暗な中に放り出される。わけがわからず混乱している中で、師叔の手がのびてきたのが、外からのわずかな光りでわかった。師叔の手は私の顔にのびてきて、驚くほど優しく、私の頬を包み込む。


「…師叔…」
…お主は本当に難しいやつだのぅ」
「え…?」
「何故自分から一人になろうとする?…つらいことがあれば、わしの所に来ればよかろう」
「そ…んな、別に、つらいわけじゃ…」
「ないのか?なら、…この頬を伝うものはなんだ」


師叔の指が、私の頬の上で少し動く。ようやく自分の頬が濡れていることに気がついた。…泣いていたんだ、いつのまにか。


「……わしは、お主を泣かせたくはない」
「師叔…」
「泣いているを見るのはつらい。…頼むから、一人になるな。つらいならわしの所に来て、思い切り泣けばいい」
「ちが、う…つらいわけじゃ、ないの」
「ほぅ?なら何故泣いている」
「…焦ってる」
「焦る?」
「みんなに、おいていかれそうで」
「何故わしらがお主を置いて行く?」
「…私はみんなと違って攻撃系の宝貝じゃないし、知識もない。師叔のように頭がいいわけじゃないし、優れた技術があるわけでもない」
「…そんな事を気にしておったのか?」
「そんなことって!凄く重要なことじゃない!」
「重要…確かにそうなのかも知れぬ。だが、それ以上にお前がわし等の中にいてくれることの方が、もっと重要なのではないか?」
「え…?」
「仲間のために使ってこその力ではないか?」
「…」
「それに、の宝貝は攻撃出来なくても、立派にわしらの役に立っておるよ」


師叔は、あやすように私の頭を撫でる。その温もりを感じていたら、驚くほど自然に涙が出てきて、ずっと泣きたかったんだと改めて想わされた。


私なんかが役に立っていると、そう言葉をくれた師叔。私の言って欲しい言葉をちゃんと言ってくれた。師叔の言葉は、私に思い出させてくれた。


闇の隣に必ず光があるように、人は一人では生きていけないのだと。









2006.10.08 sunday From mamoru mizuki.