普通の高校生になりたいと、思った事もあった。けどそれは、Lに会うまでの話。最近では、また仕事はないかと待ち遠しくなっている。
「、また仕事だ」
そう言われて、私は腰を上げた。最近はずっと座り続けだったし、それじゃなくても会いたいんだ。…どうせ相手は事件の話しかしないけど。
「どうです、」
目の前にあるのは、爆弾というやつ。Lの話によると、FBI宛に送られて来たらしい。だったらそっちで処理すればいいだろうと言ったら、出来るだけ内密に事を進めたいと言われた。なるほど。それで私が出てくるわけか。
Lから聞いた事件の概要は恐ろしいものだった。近頃多発しているテロ事件に、FBI関係者が関与しているかもしれないと言うのだ。その人物が一体何をしようとしているかは知らないが、それが民衆に知れれば大混乱の上、犯人はアメリカどころか全世界が吹っ飛ぶ程の核爆弾でも仕掛けるかもしれない。
「本当に、いつも気苦労が耐えないのね、Lは」
「ええ。おかげさまで」
「世界を滅ぼさないように、しっかりしてよ」
「わかっていますよ」
そう言って、Lはいつもの座り方で、爆弾を処理する私の隣に座り込む。私の手元をじっと見つめながら今まで閉じていた口をぱっと開いて、何事か考える素振りを見せた。
「……は、…普段は何をしているんですか?」
「…は?」
意味不明なLの言葉に驚いた。
「何って…仕事内容は前にも話したでしょ……?」
「……いえ、仕事のことではなく…休日は、何をしているかと」
「……はぁ?」
なんとか、なんとか平然を保ちたいけど、内心ドキドキしている。だって、今まで仕事の話しかしたことない人が、突然私の休日になんて興味をもつんだから。
「…別に…買いもの行ったり、映画見たり…1日休んでたり…その日によって違うけど…」
「…そうですか」
変だ。Lが変だ。ってか元々普通ではないけど、今日はもっと変だ。
「…どうしたの…急に」
「いえ……その、…もしよかったら、休日をご一緒させていただけないかと…」
Lの言葉に、私は耳を疑った。だって、あのLが。
「それって…休日デートしてくださいってこと…?」
「まぁ…そういうことになりますか…」
っておい。遠回しすぎだろ。つっこみたくなる気持ちを抑えて、ため息をついた。Lは少しも変わらず豹々としているように見える。
「いや…別にいいんだけどね?でもどうしたの突然。今までのLだったら事件の……」
「………今、なんと…?」
「は…?だからいいって…
「いいん、です…か…?」
「うん……」
だって断る理由なんてない。本当は嬉しいくらいなのに。そう思った瞬間、突然Lが横向きに倒れた。座っていたから衝撃は少ないものの、結構痛そうだ。
「ちょっとL……」
「どこに行きたいですか?」
「え?あ~…」
「が、好きです」
…………
………
……
…
…はぁっ?!
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本部に響く歌声。心が安らかになっていく。この場所で、こんな歌を歌える人がいたのかと思って、声のする方へと向かった。
「―――さん」
驚いた。まさか彼女が歌っているとは。いやそれでは彼女が歌がへたみたいな言い方だが、そうではなくて。…彼女が歌うこと自体、全く考えられなかった。
透き通った歌声。女性にしては随分低いと思っていたけど、高い声も出るんだなと感心する。
私の声を受けて、歌が止まった。その目には、驚きの色が浮かんでいる。
「っ…貴方は…?」
彼女の反応を見て、しまったと思った。私はまだ彼女に顔を明かしていない。何とか誤魔化そうと思えば出来るが、…なぜか、そうする気になれなかった。
「―――私はLです」
「っ、L!?」
驚くのも当然だ。今まで絶対に顔を見せなかった人間が、いきなり現れたのだから。
「本当に…L?」
「信じがたいでしょうが、本当です」
「―――貴方が、L…」
さんは、珍しそうに私を見た。それから細くて綺麗な指で、私の目の下をなぞる。
「このクマ…事件のせい?」
「いえ。もうずっと取れません」
そう。 言って、さんは微笑を漏らした。まるで安心した、とでも言うように。
「…今の歌は?」
「あー、なんか良くわかんない…鼻歌?」
「もしかして…作曲したんですか?」
「えっ、あ、いや…そのー…」
わかりやすすぎです。そう指摘すると、彼女は顔を赤く染めた。そのときの顔は…可愛かった。そして、私にいじわる、と言って笑ったときの笑顔。…感じた事のない感情が、芽生えた。
「…歌って、くれますか?…もう一度…歌ってくれませんか?」
「―――っ」
自分でも驚くほど、すんなりと言葉が出てきた。彼女の歌が聞きたい。心の中に響いてくるその感覚を、もっと感じたかった。
「―――もう一回、だけですよ」
そう言って、彼女は歌を奏でた。普段、カメラ越しにはわからない、可愛らしい笑顔で。
2006.02.20 monday From aki mikami.