頭が痛い。
偏頭痛持ちの私には、よくあることだ。…けれどこの痛さがまた半端じゃなくて、頭痛薬なんて効果はないし実はさっきから倒れそうだ。
ふらふらと部屋を出て、向った先は非常階段の向こう側。上へ上へと登り、鉄のドアを開けて飛び出した。
瞬間吹き込んでくる風が、心地良い。
「気持ちいー… 」
その場に座り込んで空を見上げる。空のちょうど真ん中で輝く太陽は疲れた体を優しく包み込むようだ。
「…、どうしました?」
頭上から影が落ちて来て振り返ると、そこには指をくわえてじっと視線を向けるLの姿。
「きゅーけい中よ。頭痛くて」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。ただの偏頭痛だから」
ん、と顔を歪ませるL。どうやら私の返答が気に食わないらしい。
「偏頭痛の原因は血管の拡張と言われています…が、あなたの頭痛が偏頭痛かどうかはわかりません。…ストレスから頭痛になる方もいらっしゃいます」
「…私がストレス感じてそうに見えるってこと?」
「いいえ。ただ私のせいだったらいやだと思いました」
「…Lにも普通の感覚ってあったのね」
「はい。…後々攻められるのって嫌でしょう?」
「…………」
変な期待をした私が馬鹿だったようだ。
Lは呆れている私にも気付かずに、ぼんやりとした表現でじっと親指をくわえて中空を見つめている。
「……」
「何」
「私、頭痛ってなったことないです」
「…確かにそう見えるわ」
「だからあなたの気持ちはわかりませんが……」
ざり。
Lが地面を踏んで立ち上がる。ポケットに手を突っ込んで、じっと私を見下ろした。
「…つらかったら言ってください」
「え…?」
「痛いとか、疲れたとか、怖いとか、腹が立つとか」
「…L?」
ざりざり、と何度も地面を蹴るL。唇を少尖らせて、まるで拗ねたようにいう。
「…私は超能力者じゃありません。あなたが何を考えているのかなんてわかりません。…言い当てられたとして、それはただの勘です。だから…」
「……だから?」
「私にもっとあなたを教えてください。…私があなたの心を洗い流せるように」
そう言ったLの瞳は、いつになく真剣だった。
Lは恥ずかしいことを平気で言う。それでも、今のは私が聞いた数々の言葉のなかで一番キザで、
―――一番、嬉しい。
「……相変わらず恥ずかしいやつ」
「私は真剣です」
「分かってる。…分かってるから恥ずかしくて……嬉しい」
「………!」
「歯の浮くような台詞でも、…私は嬉しいよ」
私にとってLは、苦痛を取り除いてくれるもの。逆に腹が立つときはあっても、私のことを考えてくれる人。…癒しを、優しさを、くれる人。
風が優しく横切っていく。二人の髪の毛が揺れて、太陽に煌めく。
もう少しこうやって、ここでこうしていたいと思った。だから私は、Lの腕を無理やり引っ張った。…そして、感じた。
包むような優しさと、シャツから香る風の匂いを。
2006.11.15 wednesday From mamoru mizuki.