10. 花



「可愛い…!」


ニアが可愛い顔をして眠っていたから、つい出来心で、彼の頭に花の髪飾りをつけて見た。女の私よりも似合ってる気がする。くやしいなぁ、何て思っていたら、目を覚ましてしまって…事に気づいたニアは、とても不機嫌になってしまった。


「ちょっとニアー、機嫌直してよ」
「…」
「ニアー」


何度呼びかけても反応しないニアは、明らかに怒っている。…その目はかなり怖い。


「ごめんってば」
「―――」
「ニアー、大好きだからこっち向いて、機嫌直してよぉ」
「…」


黙々と、折り紙をするニア。一体いつの間に覚えてきたのかは知らないが、その器用な指先から、一般的な鶴や、風船、紙飛行機などなどが作られていく。けど、そのたびにニアはそれをつぶしてしまう。


「…あ、それ欲しかったのに」
「…」
「ニアの馬鹿…」
「…」


あぁ、だんだん腹が立ってきた。いや、逆ギレなんだけど、でももう何言われたって知らない。


「ニア可愛い~」


完全にイヤミ。ニアが"可愛い"って言われること嫌いなの、知ってるし。
案の定、私の言葉にニアはじろっと視線を向けた。


「それつけても可愛いけどー、普通にしてても可愛いんだよねぇ~」


禁句だってわかっていて連発する。私だって怒ってるから。
私はずっと、ニアの可愛さについて語る。冷たい視線なんて、知ったこっちゃない。


「―――


突然、不機嫌極まりない声が私を呼ぶ。同時に強く方を押され、床に押し倒された。そして頭を両手で抑えこまれる。髪の毛をぐっとつかまれ、やっと離れたと思ったら。私の頭にはさっきまでニアがつけてた髪飾り。


「―――の方が、可愛い」
「っ」


嘘だ。絶対嘘だ。怒った顔で言われたって、信用できるか。そう思ってるのに。


「可愛いです」


体が、火照る。絶対私の事からかってるはずなのに。


やがてニアは、くすっと笑った。その時の顔と言ったら本当に意地悪って言ったらないけれど、そんな彼にもときめいてしまう自分がいた。








2006.02.24 friday From mamoru mizuki.