歴史の道標、女禍。
それに翻弄されて生きるのが、いやだった。
この部屋で、幽閉されている私。けどそれは自ら望んだ事。…自分でそうしてくれと頼んだ事。
女禍の"器"だった私。不完全で、なりきれなかった私。そして、捨てられた。…またいつ心を犯されるか、それに怯えながら生きてきた。
―――そんなとき、私を拾ったのは、申公豹だった。
私は彼に言った。―――閉じ込めてほしい、と。自分が怖かった。だから。
申公豹はあっさりと了解した。―――そして、私を愛してくれた。
貴方に、手紙を書いた。締め切った部屋には墨の匂いが充満する。
ここにはあらゆる物がある。刃物も、長い紐も。…私は短剣を握った。そして、自分の喉元につきつける。…もう少し手前にやれば、いとも簡単に死ねる。
「―――?」
声がした。そうして気づいた時には、いつのまにか入って来た申公豹が私の手に握られていたものを払い落とし、金属独特の音をたてて床に転がった。
「何してるんですかっ!」
「っ、死なせて!」
「どうして…!」
「もう、いやなの…。女禍に怯えて生きるのが。自分が自分でなくなりそうで…いやなの」
生きている事が、いやだ。
「―――が死ぬなら、私も死にます」
「っ」
「言ったでしょう。…愛していると」
「しん、」
無理矢理、口付けられた。何度も味わったその感覚に、心臓が締め付けられる。
「―――大丈夫。女禍を必ず、殺します」
「っ!」
「そのための封神計画です。大丈夫、確実に上手く行き、女禍は消滅する」
何度も聞かされた話だけれど、それはいつの事?私は、もう長くは絶えられない。
「―――私を、信じてください」
そう言って、申公豹は再び私に口付けた。
信じたいけど、信じられるだろうか?救われるには、信じるしかない。
私は貴方に当てて書いた手紙を、握り締めた。部屋には墨の匂いが、漂う。
2006.02,20 monday From mamoru mizuki.