「……なに、この穴」
底が見えないくらい深い穴が、一夜にして殷の国に現れた。いやぁ、驚いた…じゃなくて!一体誰が開けたんだ!しかも何するんだこの穴……!
「あ~、ちゃぁんvv」
「わっ、妲妃……!」
「いやんvvそんな化け物を見るみたいな顔しないでん♪」
「………妖怪仙人はみんな化け物の部類じゃないのか……?」
「それを言っちゃい・や・よぉんvv」
「………いちいち語尾あげるのやめてもらえますかね」
「あ~ら、ちゃんってば、つめたぁい」
「はいはい……分かったから」
纏わりついて来る妲妃をひっぺがして、穴の中を見やる。暗いから尚更なんだろうけど、ホントに底が見えなくてびっくり。
「その穴、申公豹が空けたのよん」
「げっ……あいつが…?」
「そうよん。なんか超絶機嫌悪かったみたいでん」
「……それは妲妃が怒らしたんではないわけね…?」
「んー…機嫌が悪かったのは元々だけどん、ちょーっとからかったら怒られちゃったん」
「………要するに火に油を注いだわけだね、たっぷりと」
「まぁ、そうともいうかしらぁんvv」
「……はぁ」
まったく、妲妃のこの性格には本当に困ったもんだ…。申公豹怒らしたら怖いんだからね…!あんたは怖くないかもしんないけど、後処理させられる私がつらいわけっ!
「なぁんて、知ったこっちゃない、か」
「あらぁん?なぁにちゃん」
「別に、なんでも……?」
ははは、と乾いた笑みが出た。まぁ…そうだよねぇ?私のことなんてねぇ?
「…………」
「…っ」
一気に背筋が凍る。ひんやりした空気が私をじわじわ追い詰める。…来てしまった、と思う暇すらなく、彼に抱かれ、引っ張られ、黒点虎に乗せられる。
(これから私がどんなめに合うかは、想像通りということで)
2006.10.13 friday From mamoru mizuki.