13. 色



「何を書いているんですか」


右肩からのぞきこんできた竜崎。私は手を休めずに答えた。


「夕暮れの空」
「そら…」
「見えない?」
「いいえとても上手です…ですが…」


Lは指をくわえて、じっと私の絵を見つめている。


「…何か不満?」
「何かが足りない気がするんです絵自体が、すごく寂しいですし」
「…夕暮れは得てして寂しいものよ」
「そうは思いません要は 見る人間の気持ちです」
「そうかしら」
「そうです」


わりときっぱりと言ってのけた竜崎は、私の隣りに座ってじ、と私を眺めた。


「…はいつも 寂しかったんですか」
「別に…そんなこともないけど…」
「じゃあどうしてこんなに 寂しい絵を描くんですか」


彼の双眼が語る。…私のせいか、と。


「…描いたのはなんとなく。勢いに任せて描いたの」
「やはり…寂しかったんですね」
「いや…だから違うって」
「私はあなたに寂しい思いをさせたようですね」
「だーかーらー!違うって言ってるでしょう?」


しょぼくれた竜崎ほど手のつけにくいものはない。とにかく機嫌を直そうと彼の首に腕を回した。


「もう…機嫌直してってば」
「………それではその絵に 付け足ししてもいいでしょうか」


今まで拗ねていたのはどうやら演技だったらしい。にやりと笑った竜崎はそんな提案をしてきた。


「…断ったら本当に拗ねるでしょう?」
「はい拗ねます」
「ならどーぞ」


本当は自分の書き上げた絵に手をくわえられるのって、好きじゃないんだけど。それでもここまできたら仕方ない。


竜崎は私が握っていた色鉛筆をとって、私から隠れたところで何かを書き始める。


「…竜崎?」


何を描いているのか気になる。大体彼に絵のセンスがあるようには見えない。


「…出来ました」


絵を高々とつまみあげると、竜崎はそれをこちらに寄越した。受け取って、表をかえすとそこに描かれたのは、7色の色鉛筆でお粗末に描かれた、虹。


「…虹?」
「寂しい夕暮れに希望の虹というのも 悪くないと思いませんか」


希望の虹。


そんな竜崎の言葉が、まるで呪文のように聞こえた。


「…ひどい絵ね。ただ線引いただけじゃない?」
「はい。そこまで描いたらあとは あなたが綺麗に描き直してくれるでしょう」
「まぁ…ね」


色鉛筆を受け取った。竜崎がにやにや笑って私をみる。


なんだか負けたような…でも嬉しいような、不思議な気分だ。


「…たまには悪くないでしょう こういう絵も」
「うん…そうだね」


希望の色。外から差し込んで来るオレンジが、虹色に染まればいいと思った。









2006.11.15 wednesday From mamoru mizuki.