14. 鳥



空を飛ぶ鳥は、とても自由だと思う。けど、Lは鳥とは正反対で、自由がない。
…彼がそれを望んでいるのはわかっているけれど、私は彼を自由にしたかった。


「…また事件?」
「私が事件を追っていない時間などないですよ」


と、さも当たり前のことのようにさらりと言うL。その言葉に私が顔をゆがめたことをきっとわかっていても、こちらを向かないのは私の心を読めているからだ。

休んで欲しい、Lに。

私みたいなのは只の助手(ともいえないほど何もしていない)で、疲れることなんて何ひとつない。ただ彼に指示されたことをしていればいいだけなのだから。でも、彼は違う。いろんなことを考えなければいけないのだ。考えることはそれじゃなくても疲れる(はず)なのに、ずっと一人で魂詰めて考えていたら、死んでしまうんじゃないだろうか。


「…L、休憩したら?」
「あとで休憩しますよ。それより、さっきの電話番号の書類を」
「……はい」


何だか不満だ。私の言うことに素直に従うような人間じゃないことはわかっているけれど、折角心配しているのに。いや、べつに恩を売りたいわけじゃないけれど。

ここは、はっきり言って環境が悪い。何でかって、ずっと缶詰な上に窓ですらあけられないからだ。まぁ、あけられないのではなく、はっきりいって"あけてはいけない"のだけど。…高層ホテルの最上階にいても、もし誰かに見られていたら、と言う用心から、常に窓は閉めていなければいけないし、カーテンもしっかり閉まっていなければいけない。


「…はぁ」


こんな地上から離れた所にいるのに…彼はずっと、地面に縛り付けられたようになっている。彼にとって事件とは、重力と同じようなものなのかもしれない。


しっかりと閉まったカーテンを少しだけ開けて、隙間からそっと外をのぞいた。…そこには、小さな小鳥がこちらに顔を向けていて、思わず顔が綻ぶ。


「…いいね、自由で。その翼を、Lにも分けてあげてよ」


小鳥にしてみればただ口をぱくぱくさせているだけの私に、くりくりした目が可愛い顔を横に傾けた。…ナイスタイミング、と思ってまた笑みがこぼれると、突然の後ろからの衝撃で我に帰る。


「…私は自由ですよ、あなたといるときは、ずっと」


―――ふわ、と羽のように、小鳥が空に舞いあがった。


「あなたといるときだけは、私は自由になれる。…私の翼は、あなたです」
「、くっさい台詞」


ごつ、と彼の胸を叩いてやると、だらんとした長い腕が急に私を捕まえた。―――伝わってくる温かさばかりがやけにリアルで、すごく照れくさくなってしまった。









2006.05.07 sunday From mamoru mizuki.