19. 斬



「…あなたはどうしていつも 黒い服ばかり着ているんですか」


いきなりそう尋ねられたので、心臓が跳ねた。…出来れば聞かれたくないことだ。


「それに、いつも長袖です」
「…別に…こう言う格好が好きなだけです」


ざり。一歩後退る。ず。竜崎も一歩前へ。


「白い服は着ないんですかきっと 似合うのに」
「や、似合いませんから」


ざりざり。数歩後ろに下がると…


ずざざざ。


いきなり竜崎が間をつめてきて、私の腕を掴んだ。その力は強く、後が付きそうだ。


そのまま袖を捲られる。


「あっ…」


見られたくなかった、痕。


「…やはりそうですか」


冷静な声色が注がれた、私の腕。横に幾つも痕が走っている。


…リストカットの痕。


「………見ないでよ」
「どうしてですか」
「だって」
「こんなことをしているのを見つけて、放っておけるわけがないでしょう」
「え…?」


竜崎の頭が下がり、私の腕は引っ張られる。そして、生暖かい舌が、傷口に触れた。


「っ……!」


丹念にそこを舐めていく舌。ざらついていて、…儀式めいていて、目眩がする。


「…いつもしているんですか」
「いつもじゃないけど…」
「でも痕が 残っています」
「それは…」
「次やったら、許しませんよ」


またペロ、と舐めてくる竜崎。くすぐったくて身を捩ると、彼は顔をあげてすこし唇を尖らせた。


「…あなたは私のものです勝手に傷をつけないでください」
「え…?」
「リストカットなんて、許しません。それとこれからはちゃんと白い服を着ていただきます」
「え…竜崎…?」


ちゅ、と傷口に吸い付かれた。そこにはっきりと、明らかにリストカットとは関係ない赤い痕が刻まれる。


「…愛しています、


そういわれた瞬間、なんだか頭の後ろ側から全部の感情が抜けてしまったみたいに、彼に抱き付いて泣いた。


…ずっとそう言って欲しかったの。


竜崎はただ私を抱き締めてくれた。温かい腕の中で数時間、涙が枯れるまで泣いてしまった。


後日、捜査本部に届いた白いワンピースを着せられた私。それを選んだのは竜崎なんだとか、そうじゃないんだとか。









2006.11.13 monday From mamoru mizuki.