22. 虫



かさこそかさこそ。


そんな音が聞こえたら、私の背中にだらり、といやな汗が滲んでくる。…あぁ、もしかしてあれですか?茶色くて、ぬめぬめしてて、ながーい触覚で、…想像しただけで背筋が凍る。


私は殺虫スプレーと新聞紙を丸めて持って、音のする方へと恐る恐る歩を進めていく。こんな高級ホテルにもでるんだね、ごきちゃんって。いっきに飛び出して、新聞紙を振り下ろす。


「てやぁっ!」
「わっ、わわわ!」


ん?わわわ?


「…え、L!」
…ひどい…」


驚いた。ゴキブリじゃなかったんだ?


音の正体は、Lが台所の戸棚をこそこそあさっている音だった。


「なにしてるの…L」
「や、その」
「隠してもいいことないわよー?ほら、白状しなさいっ!」


彼が後ろ手で戸棚を隠しているのでのぞきこもうとしたけれど、ぐにゃ、と体を曲げて私の邪魔をする。あんたはたこか、とつっこみたくなる。いやいやそう言う問題じゃなくて、一体なにを隠してるんですかLさん!


「L、そんなところに隠そうとしていたんですか?」


いきなり後ろから声を掛けるワタリ。一体どういう事ですか。ワタリはLの行動の真偽を知っているみたい。二人して私に隠し事?むぅ、ひどい。


「なによぅ…なんか隠し事?」
「え、あ…えっと…」
「―――L、もう白状したらどうですか?」
「は、白状って、そんないい方をするものではありません!別に私はわるいことをしているわけではないわけですし…!」
「何…なんなの?」


私一人で状況が飲み込めない。仲間ハズレって、すっごく嫌いなんですけど?


「教えてくれないんだ…」
「えっ?あ、いや…その…」
「別にいいんだけどね、Lがいやなら」
「そ、その…」
「ほらL、がへそを曲げてしまいますよ」
「……」


そっぽを向いた私の腕を、Lは軽く掴んで引き寄せた。や、ちょっとちょっと!確かにちょっと拗ねたけど、抱きしめろとは言ってないんだけど…!ワタリが見てるし…!


「…
「っ、ちょ、Lっ!離してっ…!」
「いやです。…ワタリ」
「はいはい」


くす、と笑ってワタリはどこかへと消えていく。や、ちょっとまってよ、何でそんなところまで以心伝心なわけ?意味がわからないから!


「なんなのよ…」
「……実はに、その…プレゼントが」
「…………は?」
「や、その、もうすぐ…私たちが出会って5年目なので…その、記念日、といいますか…」
「……5年目記念日?」
「そう、なりますね」
「で、プレゼントくれるの?」
「……はい。本当は当日にあげるつもりだったんです…だからどこかに隠しておこうと思って…」
「…それで、か」


それであんなところをかさこそしていた、と。そう言うわけだ。


「ありがと」
「…いえ、その」
「でもL、モニターの周りに隠せばいいんじゃないの?あの周りは私触らないし」
「いえ。あんな見えるところにあったら集中で来ませんから」
「あ、そう…」


呆れた。本当に、Lは大人何だか子ども何だかわからない。…でも、素直に嬉しいと思う。


「ほんとにありがと、L。でも、受け取るのは当日まで待ってるね?」
「え?」
「だって…特別な日なんだし、それに、待てば待つほど楽しみになるでしょ?」
「…はい」


くす、と笑ってLは私を抱き寄せた。や、そこまでする必要ないのに、もぅ。でも拒否なんて出来ないんだな。


(それぐらい、私は彼が好きってこと)









2006.10.31 tuesday From mamoru mizuki.