23. 煙



火のない所に煙はたたない。


そんな言葉があるけれど、私は今それを否定する情景を見ている。…煙、否、湯気がたっている。私はお湯を沸かした覚えはないし、ワタリは随分前に出かけたから今はいない。…だから、私のほかにこんな芸当が出来るのは…Lしかいない、んだけど……


「…Lっ……!」
「はい…なんですか…?」
「あんた……お湯沸かした……?」
「はい……それが何か?」
「だって今まで冷蔵庫の前に立ってるくらいしか見たことなかったのに……」
「…私だってお湯くらい沸かせます」
「……………意外」


意外、なんて言葉で片付けられるものじゃない。ワタリに言ってもきっと同じ様な反応をしてくれると思うのですが……


「なんですか……失礼ですね」


心底心外そうにいうL。でも誰だってびっくりすると思うよ?そもそもLがガスのつまみを回せるだけでもびっくりなんだから。


「……明日は嵐か…地球滅亡か」
「…ひどすぎます」
「だってワイミーズハウスでは勉強しか教えてくれないじゃないっ!」
「そうですけど…一般常識として…」
「一般常識!Lの口からそんな言葉が………世も末ね」
「失礼極まりないですね。いくらでもあんまり言うと怒りますよ」
「だってびっくりしたんだもん」
「………もういいです。それより
「はい…?」


Lは、まだ半分ほどコーヒーが入っているカップをこちらに突き出してきた。至極真剣な顔で。


「やっぱり自分でいれてもおいしくないです。…いれ直してください」
「…やり方教えようか?」
「いえ、の愛が詰まってないと嫌なんです」
「………ばか」


都合のいいこと言っちゃって。本当は教えたら私なんかよりずっとおいしくいれるくせに。


そうやってしか私との会話を作り出せないんだから、本当、不器用っていうか。人付き合いが苦手な人だから、仕方ないのかもしれないけど。


(でも、そんな申し出も実は嬉しかったりするんだな)









2006.11.03 friday From mamoru mizuki.