26. 雑



Lは大雑把である。


お菓子(Lにとってはご飯)は食べたらそのまんまだし、見終わった書類は机の上に無造作に乗せてある。片付けないと困るの分かってるくせに、必ずそこに積み上げて、後で私たちが探すのにとても苦労する。そんなLが……まさか、私たちの変わりに片付けをしてくれているなんて、一体どういう風の吹き回しだろうか。明日にはミサイルでも飛んでくるんじゃないかと、私もワタリもびくびくしているというのに、Lは一人嬉しそうにしている。それどころか私がこの間買ってきたCDを取り出して聞き始め、鼻歌まで歌っている(と言ってもメロディになっていないが)。


「……もしもしLさん……どうしたのあんた」
「え?別にどうもしないですよ」
「や、どうかしてるよ…」
「ひどいーー」
「……(怒)」
「そっ…そんな怒らないでくださいよ…」
「はいはい、そんな顔しないの。まったく…あんたは筋金入りの大雑把なんだから、いきなり片付けなんてしだすと驚くんですけど…?」
「……む…」
「あの、別に攻めてるわけじゃないんだけど…」


むす、とした表情を浮かべて、Lはそっぽを向いた。だからって今更、あんたはガキか、なんて分かりきった質問はしない。


っていうか夜神月の時みたいに反論してきなさいよっ…!


「…で、なんかいいことでもあったわけ?」
「……別に何もないです」
「ばか。何もなくて片付けなんてされたら明日には天変地異よ」
「……ひどすぎです」
「だって。あんたの今までの行動考えたらおかしいじゃないの。……片付けてくれたのは嬉しいんだけどね…?」
「本当ですか……?」
「本当本当。…すっごく感謝してるわ」


Lは機嫌回復したらしくて、うなだれていた頭をばっとあげて、大きなパンダ目をきらきらさせた。…うん、たまにするのよね、その目。かわいさ狙ってるのかしら。でも隈がくっきりの目でされると若干怖いんだけど…?


!感謝してるならほら、言う言葉があるでしょう」
「……………ありがと?」
「どうして疑問形なんですか…」
「や…なんとなく」
「ちゃんと言ってくださいよ。そのために頑張ったんですから」
「………は?」
「だから、そのために頑張ったんですよ」
「………私にありがとうを言わせるために……?」
「はい」


…まさかLの狙いがそんなくだらないところにあるとは、流石の私も思い付かなかった。っていうか、どうして突然…?


「誰かに吹き込まれた?」
「何をです?」
「何をって…だから、そう言うことを…」
「吹き込まれたなんて、そんなことありませんよ。ただ、夜神くんがミサさんに…」
「ん?」
「ありがとうと言ったらすごく喜んでいたので、嬉しいものなのかな、と思いました…」
「………はぁ。それはつまり実験、みたいなものだと?」
「はい」
「……まったく」


呆れた。それだけのためにか、と突っ込む気すら失せる。


「…言い損した気分」
「どうしてですか?私ちゃんと片付けしましたよ」
「……もっとちゃんとしたことでお礼言いたかったな」
「ちゃんとしたこと?」
「そう。…例えば、ってくれるとか」
る……」
「そう」


Lは、少し考える動作をした。……じっとしている。大きな目が私を捕らえる。


「なら、私が生きている限りは必ずります。……だから、もう一度ちゃんと言ってくれませんか?……ありがとう、って」
「………」


こう言う所も大雑把な要素のひとつだと思うんだけど。まったくいつになったらなおるのかね、L。


「……ありがとう、L」


なんだかんだで結局言ってしまう私って、どうだろう。甘やかしすぎはいけないって分かってるのにな。


「…ありがとう」


(何度でも言ってやりたくなっちゃうんだな)









2006.11.02 thursday From mamoru mizuki.