「―――ニア」
呼んでみたけど、彼は振り返りもしなかった。ただ無言で、ブロックを組み立てている。
「ニア」
もう一度呼んだ。今度は、一歩近づいてもみた。そうしたらようやく不機嫌な声で、何ですかと返ってきた。
「日本に、行くの?」
「はい、行きます」
「―――いつ?」
「明日」
聞かれた事にだけ答える冷めた言葉。いつものことだが、私はため息を吐かずに居られなかった。明日、というのが、あまりに突然すぎて。
「先に言っておきますが、あなたを連れて行く気はありません」
これもまた冷たく言い放ったニアは、せっかく築きあげたブロックを片手で乱暴にこわした。ガチャンという音と共に、おもちゃの瓦礫が私の足下に散らばる。
「あなたが私たちに関わっている事はメロにも知られていない。わざわざその身を危険に晒すこともないでしょう」
「―――そう言うと思った」
レスター指揮官には全く逆の事言ったくせに。
私の為?そう考えれば嬉しい事かもしれない。けれど、私は本当は二アの役に立ちたい。
「…行かない。邪魔になりたくないし」
ニアの役に立つ、それはとても難しい事。何も出来ない私は、頑張っても頑張っても彼の邪魔になってしまう。…私がいない事が、一番ニアの役に立つのかもしれない。
「…邪魔になる、とはひと言も言ってません」
「言ってる。っていうか、理由なんて他に―――」
突然、引き寄せられた。そのまま問答無用で口付けられる。ぞろっと舌が入ってきて、翻弄される私をまたさらに強く抱き締めてくる。ニアの小さく見える手は、以外にも私の頬を包み込めるほど大きくて、驚いた。やがてゆっくりと唇が解放される。
「まだ何か言うようなら、怒ります」
「…」
「必ず帰ります。…待っていてください」
そう言うと、ニアはもう私の方を見ず、さっさとブロックを再開してしまった。
「―――りょーかい」
ひと言言って、私はその場を立ち去る。
少しだけ見えたニアの横顔は、やっぱり覚めていたけれど。
2006.02.20 monday From mamoru mizuki.