30. 魂



私が死んだらどうしますか。そう真剣な顔で尋ねられたんだけど、いまいち返答に困る質問だと思う。だってこんな至れり尽くせりの所で暮らしていて何か不自由があるとは思えないし、例えあったとしてもワタリに言えばあっと言う間に万事解決、だ。外に出ることすらない、病気になる確率も殆どない彼が死ぬなんて、どうやって考えろと……?


「寿命で死んだんなら私は悲しまないよ」
「いや、そう言う普通の場合を言っているのではなく……」
「……殺された場合、ってこと…?」
「そうです」


真剣な視線に、正直戸惑った。もしかして、真面目に答えなきゃダメですか……?


「……………さ、さぁ」
、はぐらかすのはやめてください」
「えっと……やぁ、悲しいんじゃないかな……?」
「そんなことは当たり前じゃないですか。もっと具体的なことを私は聞いているわけですから……」


……は、具体的ね。まぁあんたの求めてる言葉がわかりましたよ。要するに不安になっちゃったわけだ。


「………犯人…見つけ出して、あんたの変わりに監獄にぶち込んでやる」
「そうですか。逞しい答えが聞けてよかったです」
「……なによ、嬉しくなさそうね」
「え?嬉しいですよ…?」
「う・そ。だってなんか………複雑って顔してる…」


嬉しくなさそうっていうよりは、嬉しくもあるし、悲しくもあるみたいだ。だから複雑、って言ったわけ。体現し辛い微妙な表情なんだけど。私、Lが一番欲しがる言葉をあげたつもりだったんだけど…?


「どこがご不満?」
「………別に不満はありませんよ。私の意思を継いでくれる者がいるだけで嬉しいですし…」
「それならニアとメロがいるじゃない。で、私にはそれとは違うなんかを期待してんじゃないの…?」
「いや…違うなにか、と言うよりは……」


あ、Lが言いづらそうにしている。だからはっきり言わなかったんだろうけど、なんかイライラして来るから早く話した方が身の為よ?そうLに言ったら少し迷って、こんなことを言った。


「私が死んでも、あなたには生きていて欲しいです……」
「…………………は?」
「私の敵討ちをしてが死んだら、私成仏できません」
「は………なんだそれ」
「だってにはずーーっと生きていて欲しいじゃないですか」


いや、知らんて。大体お兄さん?ずっと生きてるなんて人間の構造的に無理ありますから。


「私のせいでが死ぬのは絶対にいやなんです」


……は…はぁ、と空気が抜けた返事を返したら、Lは本気ですよ、と念押し。……分かるんだけど、かなり突飛……


「……ありがと。でも大丈夫よ」


Lの不安はわかる。だって、探偵である以上は犯罪と向き合っていく。つまりは事件のなかで私が死んだとしても不思議はないのだ。私だってワタリほどじゃないにしろ、外に出、情報収集したりする(要するにスパイ)。女の方が有利にことを運べたりするし、私はワタリと違って一般に存在が知られていないから、危険な仕事が周って来やすい。……それを心配してるんだろう。


「大丈夫って……」
「Lの為に私がいる。で、私が死なないようにLがいるんでしょ?」
「っ…!」


Lの不健康そうな目がわずかに見開いた。私の言いたいことをわかってもらえたらしい。


……Lが死なないで、ずっと私を守ってくれればいいんだよ。


ね、L?私、ちゃんとあんたのこと信じてるから。だから、死ぬとか考えるのやめようよ。


私の生活は、Lを中心にまわってる。そうなった瞬間に、私の命はあんたのものなんだから。


(勝手に死んだりしないから、勝手に死なないでね)









2006.10.14 saturday From mamoru mizuki.