31. 先



「ちょっと竜崎…」
「…」
「離して…?」
「嫌です」
「……っ」


こんの…我が儘甘党職業病やろうが……!


甘えん坊のLちゃんはわたしに抱き付いたまま離れませんが…私は一体どうしたらいいでしょうか。まったく紅茶が飲みたいっていうからわざわざいれて来てやったのに、これだ。


私は竜崎のほっぺたを思い切りつねって、むりやり引き剥がした。


「痛いですよ、
「痛くて結構。私に抱き付いてないでさっさとリクエストの紅茶飲みなさいって」
「…いただきます」


大人しくソファの上に座ってアフタヌーンティを楽しむ竜崎。こうしてれば普通の人間なんだけどなぁ(ティカップの持ち方は変だけど)。


天才的頭脳を持つ私立探偵、一度彼が関われば、様々な権力を動かしてあっと言う間にスピード解決してしまうという。あのFBIやCIAも一目置く、世界のL。…彼がそうだと、今この様子を見て誰が思うだろうか。


ー…」
「……なぁに…どうしたの?」
「一緒にお茶しましょうよ…」
「…………はいはい」


呆れ返る。だっていい歳してそんな寂しそうな表情しちゃってさ。


彼は時に、驚くほど子供っぽくなる時がある。事件に向うその瞳は探偵そのものなのになぁ。


「…
「なに?」
「……私は、あと何日生きられるでしょうか」
「…………は…?」


またわけのわからんことを…。私がそう視線を送ると、なぜかじっと見据えられて思わず紅茶を取ろうとした手が止まった。


「……だって、いつ死ぬかわからないでしょう、明日にでもキラに殺されるかも…」
「まぁ…ね…。そうだけど、でもキラは名前で人を殺せるんでしょ?竜崎の名前は誰にも知られてないじゃない?」
「そうですけど……」
「じゃあ、問題なしでしょ?」
「……怖いんです」
「え……?」
「あなたを一人にしてしまうのが、怖くて仕方ない」
「……竜崎?」


きつく私に抱き付いてくる。心臓が張り裂けそうなほどに、切ない力。


「……竜崎」


そんなこと考えてたの?だからあんなに甘えん坊だったんだ?だったらちゃんとはっきり言ってくれれば、あんなふうにひっぺがしたりしなかったのに。


「…ばか」
「ひどい……」
「私だって、一人になるの怖いよ…?」
「え…?」
「竜崎がいなくなるなんて考えられないから」
「……
「竜崎が死ぬなんてこと考えさせないでよ?」
「ごめんなさい」
「謝るんなら…ずっと、私の側にいなさい?」


竜崎がきょとんとして私を見つめた。なんだか妙に照れくさい。


「……はい」


ぎゅ、と抱き付いてきた。すっごい力。自分が男って自覚ある?嫌味が飛び出しかけたけど、喉元でとめた。


…もうしばらく、嫌味はやめとこう。ただ竜崎と二人でいる時間を楽しんでいよう。

誰も私たちの未来を教えてはくれないから。









wednesday october 11th 2006. From mamoru mizuki.