Lと知り合って、初めての冬。どうしても一緒に雪を見たいけど、ま、無理か。
「L…忙しそうね」
「えぇ、まぁ」
「紅茶、飲む?」
「お願いします」
パソコンの画面に、捜査資料、それに監視カメラの映像。その全てと睨みあって、Lは口をパクパクさせていた。
この人が忙しいのはいつものこと、っていうか忙しくない日なんて、この数年まったくない。Lは仕事のない暇な時間を望まないし、Lが仕事を求めてなくても次々依頼はやって来る。
―――さて。そんな人と出掛けるなんて事、出来るだろうか?いや、出来るはずがない。別にそれはいいけど、仮にも恋人。やっぱり少しだけ寂しい。
「―――」
予想もしない呼びかけに、私はもっていた紅茶をお盆ごと落としそうなほどびっくりした。
「な、何?」
「雪…見たくないですか?」
そう言って私を振り返ったLは、何やら変な手つき(きつね…?)をしていた。けど、その目はいやに真剣だ。
「まぁ…みたいけど」
ここでとても見たいと言うのもなんか変だと思って少し程度を落として言うと、Lはのそのそと椅子から降りる。それから相変らず手つきはきつねのままでキョロキョロと部屋を見回した。
「―――何?」
「いえ」
言ったきり何も言わないLは、再びパソコンに向かった。ただし今度はインターネットを開いているらしい。検索エンジンらしき映像が見えた。やがていくつかの操作をし、ウィンドウを全て閉じ終ると、またキョロキョロと室内を観察し始める。
「…ちょっと。挙動不審は怪しいわよ、L」
「あ、そのひと言ちょっと傷付きます。のためにやってるのに」
「え…?」
いや…わけわからないから。本当、この人っていつもいつもわからない。頭が良い上、自分の感情をストレートに出さないから、普通の人より尚わからない。
「ここですね」
窓までやって来て、いきなりつまむようにカーテンを開けた。
「―――っ、雪っ」
信じられない。私の目に飛び込んだのは、真っ白な雪だった。絶対、東京では見られないと思ったのに。
「東京ではあまり雪は降らないんですが、今年は低気圧の影響で―――」
と語り出す彼の横で、私は雪を眺める。はめごろしの窓は、冷たい。
「窓が開かないのが、残念」
「―――…少しなら、散歩でもしますか?」
「ううん、良いの」
そこまでする必要はない。彼と共に見れたから、それだけでもう充分。
「ありがと、L」
「いいえ」
滅多に降らない、東京の雪。ネオンに照らされてキラキラ光るそれは、羽のようだと思った。
2006.02.19 sunday From mamoru mizuki.