35. 雷



外はひどい雨だ。


雨の日は、実は結構好きだ。ホテル最上階から見る夜景はキラキラしていて綺麗だし、雨音が奏でる音楽は耳を済ませているだけで落ち着ける。……ただ、私が雨の日に一番嫌なもの。それは……


ピシャンッ


「っ……」


雷。


昔隣りの家に落ちたことがあって、それ以来めっきりだめになってしまった。


ただそれをLに知られるのは絶対に嫌だし、他の人にだって、知られたくなんかない。……だから私は今まで、雷が嫌いだって隠してきたんだけど………



「な……なに……?」
「前々から思っていたんですが…あなたは雷が怖いんですか……?」
「えっ…?な、ななな、な、なんで…!」
「だって雷の日は活動範囲がいつも以上に狭い。トイレと流し以外の所には一人で行きませんし……。最初は雨が嫌いなのかとも思いましたが、ただの雨の日は逆に嬉しそうなので……」
「………………そんなことありません」
「なんですか今の長い間は」
「ほ、ほんと何でもないからっ…!そんなのただの偶然だから…!」
「………そうは思えませんが……」
「いいからそう思って置いてっ……!」


そう言った瞬間、Lが不満そうな顔をした。……うわっ、嫌な予感……。


「…じゃ、窓開けましょうか」
「っ……」
「今丁度景気よく雷がなっていますよ。平気なら開けてもいいでしょう?」
「やっ……やだ……」
「どうしてですか。この部屋少し熱いから丁度いいじゃないですか。それに定期的に換気することも大事ですよ」
「……いっつもしないくせにっ!」
「たまたま今思い出しました。さぁ、窓を開け……
「やめてっ!もうわかったからやめてよ!」


思わず叫んでしまったわたしに、Lは大きな目を見開いた。…実は自分でも少し驚いている。でも、落ちるんじゃないかって言う恐怖が必ず私に付きまとう。


「……そうよ、嫌いよ。大っ嫌い。…雷も、Lも」
「………


Lの手が、こちらに伸びてくる。反射的に振り払うが、Lは逆にその手を掴んで、私を引き寄せた。腕の中が温かくて安心したけれど瞬間さっきのやりとりを思い出す。


「…離してよ」
「離れません」
「なんでよっ!」
「前言撤回するまでは、離せません」
「なによ、嫌いよ嫌い!大っ嫌い!絶対撤回なんてっ……


言葉尻は、飲み込まれてしまった。


私の唇に、Lの唇が無理やりに重ねられて、入り込んだ舌が荒々しく動く。こんなに優しくない、強引なLは初めてで、翻弄される。脳髄が、染色されていく。


「……私のことが、何ですって?」
「っ……」
「私のことが嫌い、と…そう言いましたね?」
「……」


…少し、怖い。それはきっとLが本気で怒っているからだろう。……でも、悪いのはLだ。


「………Lが悪いくせに…なんであんたが怒るのよ」
「傷ついたからです」
「何が傷ついたよっ……私だって、すごい、傷ついてっ……」


言葉が、出なくなってしまった。私って、傷ついてたんだ?そう思ったら。


「………
「なによ……」
「せーので、謝りませんか……?」
「え……?」
「私、先に謝るのは絶対嫌なんですが、それは多分もだと思うので……せめて一緒に」
「なにそれ………不思議」
「嫌ですか…?」


Lが、私の顔をのぞき込んでくる。横にわけた前髪が降りてきたのを、右手でよけてくれた。


「…わかった」
「よかった。納得してくれなかったらどうしようかと」
「…私Lほど頑固じゃないから」
「意思がかたいと言って欲しいですね」
「…意固地」
「言い返すのほうが意固地です」
「もうっ、こんなことしてたらいつまでたっても謝れないからっ!」
「それもそうですね…このままじゃエンドレスです」
「じゃ……せーのっていうから…謝ってね。せーのっ」


「「ごめんなさい」」


タイミングも言葉もまったく一緒。それがなんだかおかしくて、思わず笑ってしまった。……Lも、笑ってくれる。


喧嘩になるのは嫌だけど、Lが笑ってくれるならそれでもいいかな。そう思う。


(雷はまだ怖いんだけど)









2006.11.02 thursday From mamoru mizuki.