38. 肺



みんなは、とても優しい。……だからこそ、苦しくなる時がある。


息が出来なくて、苦しくて、みんなのいる部屋を飛び出した。…こんな自分が嫌いだって、思っているのに。


「―――…


呼び止められて、驚いた。そこにいたのはついさっきまで同じ部屋にいたはずの玉鼎真人だったから。


「玉鼎さん……」
「…大丈夫か、?」


私の事情なんて、彼は少しも知らないはずだ。なのに、微笑んで声をかけてくれる。……その優しさが、染み渡って行く。


「玉鼎さんっ…!」


すがりつくことに意味はないと、わかっていながら。私はつい彼を頼って、寄り掛かってしまう。……玉鼎さんは、訳も聞かずに抱き締めてくれた。


…呼吸が、楽になっていく。

◇ ◆


私が泣きやんだら、玉鼎さんは私を自分の部屋に招待してくれた。お茶にお菓子まで出してくれて、心が平静に戻っていく。そして、そんな私を見ても何も聞かないでいてくれる玉鼎さん。


「―――…何も、聞かないんですね」
「…聞いて欲しかったか?」
「いえ、そういうわけじゃないんですが……」
「……話したいと思ったら、自分から話してくれるだろう。人には聞かれたくない、秘密にしておきたいことが、必ずあるしな」
「……っ」
「お前は、聞いて欲しそうには見えなかった」


――すごい、と思った。たったあれだけの会話だったのに、私の考えていたことをほとんど読んでいたんだろう。


「…すごいな、玉鼎さん」
「…何がだ?」
「だって私の心、簡単に読んじゃうから」
「……誰のことでもわかるわけじゃない、お前のことだけだ。……ずっと、見ていたからな」
「っ……」


思わず顔か赤くなる。玉鼎さんが気にかけてくれてたなんて、そんなこと……。


「…もし話す気になれたら、話してくれ」


優しい笑顔。
いつか一人でちゃんと呼吸出来るようになったら、…すべてをこの人に話したいと思った。


(はじめて、人を好きになれた気がした)









2006.11.02 thursday From mamoru mizuki.