「京都行きたい」
突然なにをいいだすのだろうか。私は思わず、隣りで真剣な顔をしているを凝視した。
「何を言ってるんですか…」
「だ・か・ら!京都に行きたいんだって!」
「なぜ突然……?」
「だって、私日本人だし!」
「…私も一応日本人の血は流れているんですが」
「Lと違って私は純粋な日本人だから、わびさびが恋しくなるの!」
「はぁ……そうですか?」
「そうなの!」
時々は不思議なことをいう。それは私についてだったりケーキについてだったりするが、こんなに強烈なのは久々だ。
「……あなたの気持ちはよーく分かりましたが…」
本当はわかっていない。しかしが納得出来るまで追及させてくれる人ではないことは、百も承知。
「…連れては行けませんよ?」
「分かってるわよ。ただ無性に叫びたかったの」
…なんて迷惑な。そう思ったことは秘密にしておこうと思う。…身の安全のために。
「……ちょっとL…今すっごく失礼なこと思わなかった……?」
「いや、そんなことないです」
…思っていたのは"今"に限らないから。私は嘘は言ってない……はず。
「……悪いけど、私は精神異常じゃないわよ」
「知ってますよ。精神異常の人間を助手に据えたりはしません」
「…………なんか怪しい」
「どこがです?」
「……目が」
…元々こう言う目なんですが。と言いかけて口をつぐんだ。突然が立ち上がって、ふぅ、と息をついたからだ。
「…まぁいいや。別に生きてる間に行けなくても、どうせうちの実家はあっちだし」
……のいいたいことがよくわからない。確かにの本家は京都にあるらしいが、だから、なんだ?
「私が死んだら…L、私の遺体は京都に送ってね?」
「―――…!」
そういうことか、と疑問が解けた瞬間、私は今まで彼女に対しては感じたこともないような怒りに襲われた。
「……なんですか、それ」
「え…?」
「私があなたをみすみす殺すようなこと、すると思いますか…?」
「や…そうじゃなくて…」
「あなたは死なせません。…ずっと、私がりますから」
「……ばか」
はか、と言っているのに、は笑っている。呆れた、とでもいいたそうに。
…自然と怒りが治まったのは、私が無意識に彼女のその笑顔を渇望していたからだろう。はこうでないと、調子が狂う。
「…L」
「はい」
「ありがと」
「……いえ」
「それと、ごめんね?」
「…………いえ」
「私、ちゃんと生きて実家に帰るつもりだから大丈夫よ」
「そうしてもらわないと。それに、私のご両親に挨拶していません」
「やだっ…会ってなんて言うのよ……」
「もちろん」
―――…娘さんをください、ですよ。
そう耳元で囁いたら、彼女は照れたように笑った。こうやって、二人一緒にいられるのって、やっぱり幸せですよね。好きですよ、と囁いたら、私も、と小さく
返ってきた。
あなたはいいましたよね、二人ならどこまでも、と。
(晴れた京都に降り立つくらい、簡単でしょう?)
2006.10.30 monday From mamoru mizuki.