43. 馨



仕事を終えて部屋に入ってきた時は普通だった。それから少ししてショートケーキを食べ始めた時も普通だった。それからLに無理やり押し倒されたところまでは、いつもと変わりなかったんだけど……

現在Lは、私を強く胸板に押しつけきっちり頭を抱え込んでいる。そして何やらくんくんしている。……すっごく不快なんですけど。


「……気持ち悪いからやめてくれないかな、L」
「……やっぱり…」
「って話し聞けよっ」
、今日香水つけてますね……?」
「…は?」


尋ねてくるLの顔は真顔だ。だからくんくんしてたのか?


「つけてるよ。仕事行ってきたから」
「仕事……」
「あんたがワタリに頼んだ、CISに渡す資料。ワタリが緊急の用が出来たらしいから変わりに行ってきたの。心配しなくても誰にも見られてないわよ」
「そうじゃなくて……その…」
「? なによ」
「その……の匂いがしないと、落ち着かなくて」
「…………」


気にしすぎ。大体いつも匂いなんて嗅がれてたのか……恐ろしい。


「今日だけだから我慢しなさい?」
「むりです。のお気に入りのシャンプーの匂いがしないと仕事が手に付きません」
「我が儘言わないでちゃんと仕事しなさい?」
「……じゃあ、隣りにいてください」


そう言って、Lは私の服をくい、と引っ張った。…子供みたいだなぁ、と思ったけれど、そんな彼にもう慣れてしまった。そして、一度言い出したら聞かないことも、重々承知だ。


「はいはい、わかったから。早く手つけないとICPOの皆さんに文句言われちゃうよ」
「はいっ」


少し気合いの入った声で、Lが答えた。…これでしばらくは、ゆっくりと読書が出来そうだ(彼の隣りだからいつ邪魔されるかわからないが)。


(明日はつけないから、頑張って、ね?)









2006.11.02 thursday From mamoru mizuki.