太公望ではない、伏羲として戻ってきた彼。…少し、怖かった。
>>>Your voice<<<
彼の心が変わっているかなんて、私の宝貝を使えば一発でわかる。でも、怖くて出来なかった。
視聴宝貝、聴霊珠。相手の五感を操り、幻覚を見せたり、心の中の声を聞いたりできる。
「…のう、」
私の目の前で桃を頬張っていた彼。その顔は全然変わっていなくて、昔を思いだした。二人で釣りに行った日、望が恥ずかしそうに告白してきた日、手をつないで歩いた日、…初めてキスをした日。
「…何?」
「わしは…今までの太公望とは少し違う」
「…うん」
「は、わしが嫌いになったか?」
そう問われて、私は少し戸惑った。…真っ直ぐ私を見据える瞳は、やっぱり変わらない。でも、王天君が混ざっているだけあって、邪悪な気が増している。
―――私の両親を奪った、王天君。そして、…大好きな望。
「わからない。…望の事は大好きだけど…王天君は」
「…わしの中の王天君は、を受け入れておるよ」
…望の言葉を信じられないわけじゃない。でも、いきなりすぎる。
「―――、わしの心をのぞいて見てくれ」
突然そう言われた。…正直、怖い。
変わってしまった望の気持ちを、知るのが怖くて。
「わしを信じてくれ」
悲しげな瞳で、そう言われた。
信じる?信じてる?…信じてる。でも、王天君は?…王天君を、信じきることが出来る?
「…怖いの」
「」
「怖いのっ、…だって私はまだ、王天君を受け入れきれてない…」
「―――っ」
突然腕をひかれた。無理矢理に口付けられれば、いやでも彼の心が入り込んでくる。
笑って、信じて、怖い、嫌わないで。 ―――愛してる。
ようやく唇が離れた。私の頬も、彼の頬も、自然と涙が伝っている。
「ごめん…ごめん、望っ」
彼だって、怖かったんだ。私だけじゃない。私に嫌われることが…怖くて。
「…ごめんね、望」
「っ…」
「私も愛してる。嫌いになんて…なれない!」
そう言って、またどちらからともなく唇をあわせた。
あれから、私はまだ少し望と離れて暮らしている。
好きで、好きで…それでも、王天君を受け入れきれるだけの心が、まだ備わってないから。
私がもっと、強くなれたら。
きっと、貴方の元に行くから。
2006.02.21 tuesday From mamoru mizuki.