12.屋上で



「好きだ!」


そんな言葉が聞こえた瞬間、軽く眩暈がした気がした。


屋上に昇った瞬間、自分の彼女が告白されているところに出くわすなんて…俺はなんてついてないんだろう。しかもあれは、サッカー部のエースじゃないか!


がなんて返すのか、それはもう気になって気になって仕方なくて、つい立ち聞きしてしまうオレ。なんか情けない…。


しかし!こうやって客観的にを眺めていると、言い知れぬ不安が襲ってくる。オレ、に嫌われるようなことしてたかな、もしかしてオレ、フられたりしないか?最近あんまりデートしてなかったな、どうしよう!とか。


は目の前の男子を見て、少し笑った。なんだよ、その笑い!おおお!お前まさか…!


「……ありがとう」


なんだってーーー!?


の口から紡がれた言葉に、口から魂が抜け出る感覚を覚えた。


あぁ、放心ってこう言うことか?


よく頭の上から重りが降って来るとか、頭を殴られるとかいうけど、今その表現がどれだけ適切か思い知らされた。だからそんなオレの耳にの言葉が入って来たとき、はじめ何をいってるんだかよくわからなかった。


「嬉しいけど…私、彼氏いるから」


その言葉をやっと理解出来たとき、ほっとしてつい床に手をついた。


「知ってるよ!野球部の花井だろ?でもあいつ…野球ばっかで全然に構ってやってねぇじゃん!」


かなりズシンと来る言葉だった。…そうだ、オレはのために何もしてないし、最近は学校でしか話してない。それなのには彼氏と言ってくれる…想ってくれる。申し訳なくて、でも嬉しくて、頭の芯がズン、と重みを持った。


「確かに…花井は最近野球ばっかであんまりデートしてないし、彼女なのに学校と練習試合でしかあえない。すっごくつまんないときもあるよ。…けどね、私…やっぱり野球を頑張ってる花井が、大好きなんだ。みんなをまとめるのに苦労して、へとへとになって、みんなのこと、試合のこと、いろんなこと話してくれる花井が好きなの」


のその言葉が魔法のように、オレの頭に響いてくる。


…普通、好きなわけないよな。なのに、はあんな平然と、大好きといってのける。


不覚にも、涙が出そうになった。


「…ってことなんだけど花井、聞いてた?」
「っ!わっ…!」


ガチャ、とドアが開いて、がふわりと笑った。どこか照れくさそうにこちらを見下ろしている。


「今言ったとーり、私は花井が大好きですから。心配しないでね」


くす、と笑うと、オレの手を引っ張ってくる。立ち上がって、気まずそうに立っているサッカー部をみた。


「花井、最近野球ばっかりだし…少しは私も構ってほしいんだけど。それでもね、私やっぱり、野球を頑張ってるからこそ、花井が好き」
…」
「お~?泣きそうですかぁ~?」
「な、泣かねぇ!」
「素直になりなさいよ」
「うっせぇ!」


気まずくてそっぽを向くと、いつの間にかサッカー部はいなくなっていた。オレなんかより、向うの方が気まずいよな。あいつの方がオレより、を幸せに出来るかもしれない。だけど、はオレを好きだと言ってくれる。たぶんずっと、オレを見ててくれる。


「…
「ん?」


振り向いたを思い切り抱きしめた。落ち着き払って抱きしめ返してくるのがむかついて、無理矢理にキスをする。


「……好きだ」


普段あまりいえないけど、今日は。


オレを信じてくれる。そんなを、オレはちゃんと信じて、ずっと、一緒にいよう。









2007.08.02 thursday From aki mikami.