16.調理実習後



オレは今、自分でもわかるくらい落ち着かない。それは、うちのクラスの女子が持っているあの包みのせいだ。


選択教科で家庭科をとったやつだけが持って帰ってくる、おやつの包み。授業前、隣の席のやつが今日はマフィンを作ると言っていた。


オレが落ち着かないのは、最近出来た彼女…同じクラスのが、オレにあれをくれるかどうかだ。いや、別にあげるよ、とか言われたわけじゃないんだが、やっぱり…他のやつが貰ってるのを見ると、欲しくなるって言うか…


ただはちょっとひねくれたところがあって、くれるとしても普通の方法では絶対くれない…と思う。


「あ、花井!」


振り返ると、が楽しそうに笑っていた。



「えー、あのね、えっとねぇ…今、調理実習だったんだー」


きたっ。思わず身構えるが、そんな俺を見てがうかない表情を浮かべた。


「…どうした?」
「それがね…マフィンだったんだけど…失敗しちゃって…」
「あー…そ、そう、なんだ」
「うん…だからね、これあげる」


そう言って、はみんなが持っているのと同じ包みを取り出した。開いて見ると、中には飴玉が幾つか入っている。


「ごめんね」
「気にするなよ。失敗したんなら仕方ないだろ?」
「うん…今度は上手に作れるようにがんばります」


かなり落ち込んでいるんだろうか。こんなに素直に頷くなんて珍しい。正直オレも少しヘコむけど、こうやってなんとか埋め合わせようとしてくれることが嬉しくて、俯いているの頭を軽く撫でてやった。


「…ありがとな」
「う、うん!」


俺の気持ちが伝わったのか、少し笑みが戻った。そのとき丁度チャイムがなって、先生が教室に入ってくる。はもう一度オレにごめんと言いながら、席に戻っていった。他のみんなも各自自分の席に戻っていく。隣の席の女子が、座る直前に俺の方を見て、突然花井くんも大変ね、といった。


「それってどういう…


言い掛けたとき、丁度良く号令がかかった。礼をして頭を上げ、着席すると、もう教室は静かになっていて、…さっきの続きを聞こうにも、聞けそうにない。仕方なく、机の中から勉強道具を出して、それからさっきがくれた飴を一つなめることにした。授業中に飴なんか舐めてるのがばれたら確実に怒られるが、この席(一番前の一番端)は以外と先生が見てないところだから多分ばれないだろう。


と、飴を一つ取り上げたとき、紙で出来たピンクの包み紙に何か書いてあるのが見えた。…印刷か?でも何でこんなところに。紙を傾けて飴を机の上に落とす。


「あっ」


思わず声に出したら、隣の女子が少し笑った。


   鞄の中 見てみて


の字だ。


騙された。失敗したなんて嘘だったんだ。鞄をあけて中を見たら、思った通り。ピンクの包み紙が入っている。ふっくら膨れたシルエットでわかる、中身は明らかに、マフィンだ。


チラ、との方に視線をやると、軽く舌を出した。コノヤロ、と口パクすると、楽しそうに笑い出す。


やっぱり、どっかひねくれてんだよな。


でも、こんなひねくれ方なら悪くねぇな。とは思う。


(でもやられっぱなしって悔しいし。 今度なんかやり返してやろ)









2007.06.26 tuesday From aki mikami.