20.3年間の思い出



横断歩道の向うに、大きく手を振る人影を見つけた。目を凝らすと、それは何と元カレで、まずったな、と思ったときにはすでに遅かった。これから隆也に会うのに、他の男なんか連れてきたら私、きっと怒鳴られる!(元カレは半殺しにされる…)


「よぉ」
「あ~ど~も~」
「んだよ、愛想ねーな」
「まーねー」
「あ、もしかしてこれから彼氏に会うわけ?」


わかってんなら早く帰れよ。そう思って言いかけたけど、うんと頷くに留めておいた。ここは早く帰って頂きたい。


「マジか。相変らず男出来んの早いねー。オレと別れてからそんなたってなくね?」


別に好きで付き合ってたわけじゃないんだから、当たり前だ。とは当然言わなかったけど、声を大にして言いたい。言ったらショック受けて帰ってくれないかな。なーんて思ったりして。


…それにしても。


高校3年間で、私は結構色んなやつと付き合った。けど、正直その中の8割は好きじゃなかった。向こうが言うから付き合って、そのうち飽きて別れる。…こいつも、その8割の内の一人だ。好きって気持ちが良くわからなくて、言われるまま付き合ってみた。けどだめだった。私はずっと部活一筋で、他のことを考える余裕がなかった。考えたくもなかった。


そう考えると、今こうして隆也と付き合ってるのが、なんだか奇跡みたいに思える。本気で好きで、本気で付き合って。別れるなんて考えられないから。


「…ま、とにかく私、もう行くから。私の彼氏、怒るとこわいのよー」
「おー、わりーわりー。じゃ、俺も行くな」
「うん。…じゃ」


軽く手を上げて、背中を見送る。…当たり前になりかけた気持ちを気づかせてくれたこと、ちゃんと覚えておこう。振り返って歩き出す。


ポケットが振動した。ケータイを取り出すと、サブ画面にはたった今別れた元カレの名前。ケータイを開いて、メール画面に切り換えた。


『お前、今の彼氏のことちゃんと好きだろ?昔よりかわいくなった』


すきだよ、ありがとう。


そう打って返信した。どうやら心の声はバレバレだった見たいだ。思わず笑いが漏れて、画面を額に押し付けた。するとまた振動して、今度はディスプレイに『阿部隆也』と表示される。


「…もしもし」
『おせーよ!早くこい!』
「はいはい、わかったよー。今ドコ?」
『ドコって、待ち合わせしてんだから待ち合わせ場所に決まってんだろ?』
「はーいはい、そーね。あと5分で行くわ」
『5秒』
「ムリだって」


こんな下らない電話が楽しいなんて、今まではなかった。だから、つみあがった3年間よりずっと、今の方が大切。


でもそう思えるってことは、3年間も決して無駄ではなかった。そう思いながら、私は見えてきた隆也に手を振った。









2007.12.24 sunday From aki mikami.