21.あと10分!



「なー、タバコってうめーの?」


私の後ろでシャープペンを握っていた榛名が、さして興味もなさそうに尋ねてきた。勉強に飽きて話しかけてるのがバレバレだ。


「別に。うまくないよ。いーからさっさとやっちゃおーよ。終わんないョ」
「うまくねーんなら何ですってたんだよ」


だらん、とだらしなく背中を凭れてこちらを見ている榛名。これは完全に集中きれてるな。そう思っていると、なー、と言いながら体を起こし、頬を膨らませた。


「よく言うでしょ、イライラをおさえるとか。あんなんと変わんないよ。一回吸っちゃうと依存しちゃうし」
「へー。で、やめれたのはオレ様のおかげなんだろ?」
「そーだってば。しつっこいな」


ニヤニヤし始める。もう何回言われたかわかんないくらい言われてるのに、まだ言うらしい。


「榛名って、私のこと脅したいわけ?」
「今はナ。なー、これやってー」


にっこり笑って差し出したワークブック。勿論問題は半分以上残っている。私はワークを榛名に突き返して、自分の机に座った。


「私だって今国語やってるし」
「終わってからでいーって。で、オレはお前がやったのをうつす」
「…先生に言うよ」
「ケチ!」
「あー、もううるさいな。ホラ、これから遊びに行くんでしょ?あと15分で終わらせてよね」
「え、マジ?」
「マジ。私はもう終わるんだからね」
「うっわ!」


慌てて問題にとりかかる榛名。そんなに慌てなくても、その程度の計算なら楽勝だよ、とは勿論言ってあげない。


私がタバコを吸ってたことに、特に意味はなかった。特別依存していたわけでもないし、苛々していたわけでもない。強いて言うなら、あまりにも空虚な自分の隙間を埋めたかったのかもしれない。


ころころ変わる榛名の表情は、私が忘れた分の感情までも、代わりに持っていてくれるようだ。言ったってきっとわかって貰えないけど、最近すごくそう思う。


「ほら、あと10分!」


私の声に、榛名がうなった。豪速球のピッチャー君も、こうなるとただの子供だ。それがおかしくて笑っていると、悔しそうに笑うな!と叫んで私の頭を叩いた。









2007.12.27 thursday From aki mikami.