「なー、タバコってうめーの?」
私の後ろでシャープペンを握っていた榛名が、さして興味もなさそうに尋ねてきた。勉強に飽きて話しかけてるのがバレバレだ。
「別に。うまくないよ。いーからさっさとやっちゃおーよ。終わんないョ」
「うまくねーんなら何ですってたんだよ」
だらん、とだらしなく背中を凭れてこちらを見ている榛名。これは完全に集中きれてるな。そう思っていると、なー、と言いながら体を起こし、頬を膨らませた。
「よく言うでしょ、イライラをおさえるとか。あんなんと変わんないよ。一回吸っちゃうと依存しちゃうし」
「へー。で、やめれたのはオレ様のおかげなんだろ?」
「そーだってば。しつっこいな」
ニヤニヤし始める。もう何回言われたかわかんないくらい言われてるのに、まだ言うらしい。
「榛名って、私のこと脅したいわけ?」
「今はナ。なー、これやってー」
にっこり笑って差し出したワークブック。勿論問題は半分以上残っている。私はワークを榛名に突き返して、自分の机に座った。
「私だって今国語やってるし」
「終わってからでいーって。で、オレはお前がやったのをうつす」
「…先生に言うよ」
「ケチ!」
「あー、もううるさいな。ホラ、これから遊びに行くんでしょ?あと15分で終わらせてよね」
「え、マジ?」
「マジ。私はもう終わるんだからね」
「うっわ!」
慌てて問題にとりかかる榛名。そんなに慌てなくても、その程度の計算なら楽勝だよ、とは勿論言ってあげない。
私がタバコを吸ってたことに、特に意味はなかった。特別依存していたわけでもないし、苛々していたわけでもない。強いて言うなら、あまりにも空虚な自分の隙間を埋めたかったのかもしれない。
ころころ変わる榛名の表情は、私が忘れた分の感情までも、代わりに持っていてくれるようだ。言ったってきっとわかって貰えないけど、最近すごくそう思う。
「ほら、あと10分!」
私の声に、榛名がうなった。豪速球のピッチャー君も、こうなるとただの子供だ。それがおかしくて笑っていると、悔しそうに笑うな!と叫んで私の頭を叩いた。
2007.12.27 thursday From aki mikami.