「…なんでいるの?」
「今日朝練ないんだよね。だから迎えに来た」
にっこり笑った勇人が座っているのは、我が家の食卓だった。当然のようにそこにいて、テーブルにはトーストとマーガリンまで置かれている。
「母さんは?」
「仕事いったよ。今日早番なんだってね」
「…アノおばさんはァ~!」
「いーから早く食べちゃいなよ。学校遅れるよ」
遅れる気満々だったのに!そういったら、勇人は呆れたような顔して、やっぱりね、と言った。こっちがやっぱりだよ!わかっててきてるんだもん。わざと大きな音を立ててイスを引いた。
私は黙ったまま、マーガリンをぬる。勇人はコーヒーを飲みつつ、今日の授業のことや最近の野球部の話なんかをしていたけど、テキトーに相槌だけうって聞き流した。だけど、途中で聞き捨てならない言葉を耳にしたような気がした。
「そ…っか…」
「え、ちょ、まっ… 今なんて?」
「え?」
聞き返された勇人も少しびっくりしている。でも、聞いてませんでした、なんていいたくなくて黙っていたら、頭をかきながらもう一度同じ言葉を繰り返した。
「や、あの…カレシできたかなっておもって…」
「……いない」
「え?だってさっき…」
「いません」
「え…と、それはつまり…さっきのウンは…」
「…キキナガシテマシタ」
気まずい。二人でいるのに話し聞いてないとか。でも、私だって怒ってるんだよ?勇人が勝手にくるから。何か言われたらそう言おうと思ったのに、横目で盗み見た勇人はちっとも怒っていなかった。
「へ…へぇ、いないんだ… へぇー…」
「え…ゆーと?」
「つーか!今オレの話聞いてなかったってこと?人の話はちゃんと聞けよー」
「……うん、ゴメン」
言い返してやろうと思ったのに。勇人の反応が意外すぎて、用意していた言葉を言うこともできなかった。
だって、勇人が… うれしそうに見えるから。
それからまた、勇人お得意のお小言が始まった。けど私は、それをまたほとんど聞き流していた。
私に彼氏がいないことをうれしいと思う勇人がうれしい。
自分がそんな風に思っていることに、あまりにも動揺していたから。
2007.12.28 friday From aki mikami.