46.掃除当番はサボるもの



西浦に入ってから、田島はすっかり野球部に入り浸りになってしまった。だからかな、少し寂しくて、でも文句言えない、って我慢して来たんだけど…ね。


爆発なんてしない。けど、私最近ちょっとイライラしてて。そしたら田島がまた空気を読まなくて、楽しそうに、今週の日曜三橋ん家に泊まり行くんだ!なんて言ってきた。よかったね。素っ気なく返すと、いきなり抱き付いてきて、しかもぐりぐりすり寄ってくる。


さぁ、最近冷たいなぁ。オレ、マジショック!」
「そうですかー」
「なんだよ、素っ気ないなぁ」
「そう?」
「そうだよ!あ、もしかして浮気とか心配してんのか―――っ、ふごっ!!」
「してないわよバカ!」


思い切りぶん殴ってやったら、軽く後ろに倒れた。またやってるよ、って目で回りから見られる…のは癪だけど、まぁ現実にいつもやってるから仕方ない。


!いてぇよマジいてぇ!死ぬ!」
「そんなんで死ぬわけないでしょばか!」
「死ぬよ!だってばかぢか………むぐ、むぐぐぐぐっ」
「リアルに死んでしまえぇぇぇえぇ!」


口をふさいで首を締め上げる。私の腕をバンバン叩きながらむごむご言ってるのは、多分「ギブギブ!」だろう。


「思い知れぇえぇぇ!」
「むぐ、ぐごごごご」
「あのーお二人さん?ホームルームはじめてよろしい?」
「っ!先生!」


田島を締め上げるのに夢中で気付かなかったけど、教卓の前には先生が立っていた。こっちを見て呆れた表情を浮かべている。


「す、すみません!」


私はぱっと田島を離して席につく。田島はふらふらしながら私の隣り(悔しいことに、正式に田島の席)に座った。


あぁ、もう。イライラする。どうして私、こんなやつ好きになったんだろう。悔しくて、田島を見ないようにしていたら、いきなり田島が小さな声で、なぁ、と話しかけて来た。


「………なによ」


ぶっきらぼうに答える。すると田島はこちらに身を乗り出して、口に右手をそえながら言った。


「今日出掛けんぞ」
「………………はぁ?」
「今日は部活ないかんな。だから遊び行くぞ!」
「な、なによ急に…」
「だぁって!寂しいんだろ?だったら遊んで愛を育むのがいちば……ぐぇっ!」


声がデカい上に恥ずかしいことを平然という田島の頭に思い切りチョップを食らわせて、明らかにこちらを睨んでいる先生に愛想笑いした。ホームルームももうすぐ終わり。あと10秒で終了チャイムだ。


「…………付き合ってやる」


そうとだけ答えると、田島は先生から見えないように小さくガッツポーズを作った。単純だなぁ、と思う一方で、その笑顔が嬉しかったりして。


終了のチャイムがなると、号令係りの合図でみんなが一斉に立ち上がる。起立、礼、のあと、田島は鞄を引っ掴みそして私の腕も引っ掴んで走り出した。強引すぎだし、喜びすぎだから。でもそれは、私も一緒なんだけどね。


(そういえば、田島今週掃除当番じゃなかった?)
(いいのいいの!掃除はサボるもの!)
(…バツ当番手伝わないからね)
(のケチっ!)









2007.06.23 saturday From aki mikami.