お祭りってのはあんまりすきじゃない。いや、本当は好きなんだよ。でも、疲れちゃうからそこは嫌い。それに…昔は、勇人と二人で来てたけど、今はもう、そんなことないし。
浴衣でキレイに化粧しても、見てほしい人がいないんじゃつまんない。となりにいる男がバスケ部のエースでも、野球部のセカンド君じゃなきゃ嫌なの。さして面白くもなさそうな型抜きに夢中になってるやつなんて、どーでもいいの。
私はバスケ部をおいて、ふらりと屋台の裏側へ出た。
狭い神社の境内。ひしめき合う人。その波からはずれて、こうやって裏から祭りを眺める方が、私は好きだった。うんと小さい頃は、ここで待っていると勇人が必ず、金魚をとって持ってきてくれた。―――いつからだろうか、差し出される手がなくなったのは。
明かりがまぶしくて、ぼんやりしてきた。数回瞬きしたけどダメで、今度はきつく、目をつぶる。ぱっと目を開くと、なぜかそこには勇人がいて、私は思わずあとずさってしまった。
「っ、ゆ、勇人!」
「よ。どーした。太田と一緒じゃないの?」
「…一緒じゃないよ。 それに、どーしたって、それはこっちの台詞だよ。 なんでいるの?」
どーみても部活帰りのジャージ姿に、大きなスポーツバック。この場にとーっても不似合いな感じ。
「部活の帰りに、みんなでよったんだー」
「え、…あ、うん、まぁ…それは見たらわかるんだけど…」
「…へ?あぁ… なんでがここにいるかわかったか、ってこと?そりゃーわかるよ」
曖昧にそう返されて、頭をポンと叩かれた。…なんだかすごく、腑に落ちない。
「それよりさ、ほら。これあげる」
「え…?」
ずい、と差し出されたのは、赤い紐にぶら下がるビニール袋。中身は勿論、金魚だ。ふゆり、ふゆり、と泳ぐ姿は、何年たったって変わるはずはないんだけど…変わらないものを、こんなにも愛しく感じるのはなぜだろう。
「ゆーと…ぉ」
なんで?
なんで涙が出てくるんだろう。勇人が来てくれて嬉しい?嬉しいよ。でも、なくことないじゃん。わかんないよ。もう。
止めたい、けど止められなくて、私は勇人にじっとしがみついて、泣いた。
小さい頃にも、こんなことがあった気がする。
途中勇人の声が、浴衣似合ってるよ、とか、好きだから泣かないで、とか、すごく懐かしいことを言ったような気がした。
変わっていくもの 変わらないもの 沢山の中で、
今も私の気持ちだけが、 あの金魚のように 捕らわれたままなんだ。
2007.08.10 friday From aki mikami.