52.金魚すくいのお話



お祭りってのはあんまりすきじゃない。いや、本当は好きなんだよ。でも、疲れちゃうからそこは嫌い。それに…昔は、勇人と二人で来てたけど、今はもう、そんなことないし。


浴衣でキレイに化粧しても、見てほしい人がいないんじゃつまんない。となりにいる男がバスケ部のエースでも、野球部のセカンド君じゃなきゃ嫌なの。さして面白くもなさそうな型抜きに夢中になってるやつなんて、どーでもいいの。


私はバスケ部をおいて、ふらりと屋台の裏側へ出た。


狭い神社の境内。ひしめき合う人。その波からはずれて、こうやって裏から祭りを眺める方が、私は好きだった。うんと小さい頃は、ここで待っていると勇人が必ず、金魚をとって持ってきてくれた。―――いつからだろうか、差し出される手がなくなったのは。


明かりがまぶしくて、ぼんやりしてきた。数回瞬きしたけどダメで、今度はきつく、目をつぶる。ぱっと目を開くと、なぜかそこには勇人がいて、私は思わずあとずさってしまった。


「っ、ゆ、勇人!」
「よ。どーした。太田と一緒じゃないの?」
「…一緒じゃないよ。 それに、どーしたって、それはこっちの台詞だよ。 なんでいるの?」


どーみても部活帰りのジャージ姿に、大きなスポーツバック。この場にとーっても不似合いな感じ。


「部活の帰りに、みんなでよったんだー」
「え、…あ、うん、まぁ…それは見たらわかるんだけど…」
「…へ?あぁ… なんでがここにいるかわかったか、ってこと?そりゃーわかるよ」


曖昧にそう返されて、頭をポンと叩かれた。…なんだかすごく、腑に落ちない。


「それよりさ、ほら。これあげる」
「え…?」


ずい、と差し出されたのは、赤い紐にぶら下がるビニール袋。中身は勿論、金魚だ。ふゆり、ふゆり、と泳ぐ姿は、何年たったって変わるはずはないんだけど…変わらないものを、こんなにも愛しく感じるのはなぜだろう。


「ゆーと…ぉ」


なんで?


なんで涙が出てくるんだろう。勇人が来てくれて嬉しい?嬉しいよ。でも、なくことないじゃん。わかんないよ。もう。


止めたい、けど止められなくて、私は勇人にじっとしがみついて、泣いた。


小さい頃にも、こんなことがあった気がする。


途中勇人の声が、浴衣似合ってるよ、とか、好きだから泣かないで、とか、すごく懐かしいことを言ったような気がした。


変わっていくもの 変わらないもの 沢山の中で、


今も私の気持ちだけが、 あの金魚のように 捕らわれたままなんだ。









2007.08.10 friday From aki mikami.