55.館内禁煙



「くせぇ…」
「え?そう?」
「あぁー。ちょっくら行ってくるわ」
「え?ちょ、榛名!」


秋丸はシカトして、屋上に上った。本来なら鍵がかかってるはずだが、ずいぶん前から壊れてて、実は自由に出入りできる。たぶん野球部と、その他ごく少数しか知らない。


で、そのごく少数の内の一人が、こんなところでタバコなんてふかしてやがる。受動喫煙で肺ガンにでもなったらどーしてくれんだタコ!


勢い良く屋上のドアをけりあけた。そこにたっていたのは、以外にも女だ。でも、女だろーが関係ねぇ。大体、学校ん中でタバコすうなんて校則違反だろーが!


「おい、何タバコなんかすってやがんだこのタコ!」


オレの言葉に、女はゆっくりと振りかえった。


「榛名…元希…?」
「は?」


なんでオレの名前知ってんだ。その疑問は、そいつが振り向いた瞬間に解けた。


「なんだよ…お前か」
「私ですけど」


同じクラスの。たしか吹奏楽部だ。サックス持ってクラスで練習してんのを、たまに見かける。


「タバコなんかすうなよな、女のくせによ」
「なにそれ、男尊女卑?」
「バカ、そーじゃねーだろ」


くすくす笑いながら火を消すと、携帯灰皿をポケットにしまった。口では反抗しといて、結局数のやめんのかよ。そういったら、根は素直なの、とか言って、また笑った。


「そーはみえねーよ、バカ」
「なら、女を見る目ないのねー」
「ウッセー。ったく…変なやつ」
「そう?」
「そーだよ!」
「ほめ言葉」
「バカ!」
「知ってる」


人をおちょくってるみてーに、冷静で淡々としゃべる。けど、言ってることは結構気がきいてて、イメージとの相違に少し驚いた。もっとジョーダンのきかない、つまんねーやつだと思ってたのに。


「お前、クラスでもそーしてりゃいーのに」


クラスでのは、すげー静かで、たまにしゃべっても殆ど笑わねー…っつーか、本気で笑ってるとこなんて、見たことねーかも。


「笑ったら、けっこーかわいーんだからサ」
「なっ…!」


は真っ赤になって、オレの方を睨んできた。なんだよ、すました顔以外もできんじゃん。タバコすってんのは賛成できねーけど。


でも、これから仲良くなれっかもしんねーな。


この日からがタバコを止めた…と知るのは、あと半年後のこと。









2007.08.15 wednesday From aki mikami.