56.体育祭の前日は



「デートしたい」


突然言い出したの表情は真剣だ。


「…は?」
「だからー!デートしたいのデート!」


言葉の意味はわかる。けど、なんで突然?そう聞くと、は拗ねた顔をしてこっちを射抜いた。


「…私たちって、付き合ってるよね?」
「そうだけど…」
「でもさ、デートってほとんどしたことないよね?」
「そ、それは…悪いと思ってっけど…」
「私、ちょっと拗ねてるの」
「…ごめん」
「だからね」


ステップを踏んでくる、とこちらを振り向くと、かわいい(けど裏がある)笑顔を浮かべた。


「明日の体育祭で私のチーム負けたらデートはなし。でももし勝ったら…今週の土曜デートね?」
「なっ…お前今週は練習試合だろ!お前も応援来るって…」
「また野球…私のこと大事じゃないのね」
「そうじゃねぇだろ!大事じゃなかったら試合見にこいなんて言わねーし、付き合ったりもしないだろ!なんか変だぞお前…」
「何と言われようが私は譲らないから。負けたら応援、勝ったら練習試合デートね」


………………は?


「………今なんて?」
「二度はいいませーん。自分で察して」


そう言って、はオレに背を向けた。肩が、微かだが震えているように見える。


その瞬間、直感した。


は、今も我慢してるんだ。


ずっとわがままを言わないで黙って応援してくれた。けど本当は辛くて、でもそれをオレに言わんとして。


「……よしわかった。その条件のんでやる。そのかわり…」
「え?」
「もしオレのチームが優勝したら、バツとして試合のあとデートな」
「……は?」
「は、じゃねーよ。のむのか、のまないのか?」
「………の、のむ」
「んじゃ、決まりな」


頭を軽く叩いてやると、俯いて震え始めた。泣いているらしい。


「泣くなよおい」
「だ、だってぇ」
「ったく。本当お前ってどっかひねくれてるよな」
「………それが私だもん」
「そーだな。ま、オレが勝っても負けても…デートはしようぜ」
「…うん!」


本当のかわいい笑顔で笑って、オレを振り向いた。見慣れているはずが、いつもよりこんなに大切に思える。


柄にもない行動だとは思ったが、オレはの額にキスをした。すると、大きくて濡れた瞳がまっすぐ射抜いてきて、自然と、二人の唇が重なった。









2007.07.02 monday From aki mikami.