Merry Christmas!! 12/25



捜査本部を追い出されてから数ヶ月。もう二度と話すことはないと思っていた彼から、謎の荷物が届いた。中身はまだ見てない。見るのが怖いからだ。だってあのLが、私に、何をよこしてきたっていうの?ろくでもないものに決まってる、この大きいとも小さいともいえない微妙な大きさがまた気持ち悪い。


そんなことを考えながら荷物の前にもう何時間正座しているだろうか。そろそろ足もしびれているけれど、まだ開ける気は起きない。


というか、今さら私に何の用があるっていうの?アナタは足手まといです抜けてくださいなんて、あんなヒドイこといっておいて。私はLにならすべてを捧げる覚悟すらあったっていうのに。…たとえこの気持ちが伝わらなくても、そばにおいてくれるだけでよかったって言うのに。


思い出したら寂しくなってきて、箱の上に突っ伏した。…そうだよ、Lは私のこと嫌いなんだから。今日はクリスマスだからもしかしたら、なんて思ってたけど、そんなわけない。きっととんでもないものを送ってきたに違いない。クリスマスもたった一人で過ごす独身女の私をバカにしてるに違いない。


そんなことをうじうじと考えていたら、突然携帯電話が鳴った。お気に入りの着メロなのに、あまりに突然すぎてびっくりして肩がはねた。テーブルに手を伸ばしてディスプレイを見ると、そこには見たこともない電話番号。…間違い電話かな、そう思いながらも通話ボタンを押した。


「…はい」
『…』


電話の向こうは、無音だった。誰も何もしゃべらないし、物音すら聞こえない。


「…あの、もしもし?」


呼びかけてみるけど、向こうは相変わらずの無言だ。…無言電話?それともやっぱり間違い?よくわからないけど…気持ち悪いし、切ろう。そう思って携帯を耳から離しかけたとき。


『…さん』


聞こえてきたのは、今一番聞きたい、でも聞きたくない、彼の声だった。


「え…L!?」
『…どうも、お久し振りです』
「え…え…?」


突然過ぎて、返す言葉が見つからない。頭が混乱して、私は意味もなく部屋の中をうろうろと動き回った。


『もしもし…どうかしましたか』
「どうかしましたかって…こっちのセリフですよ!どうしたんですか」
『…いえ、別に』
「別にって…アナタが用事もないのに私に電話なんてかけるわけないでしょう!もしかして私、捜査資料持ち出したりしてました?それともなんか確認することとかありました?それかえっと…!」
『荷物』
「…………え?」
『荷物、見ました?』
「え…ああ、いえ、まだですけど」
『…なんで早く見ないんですか』
「なんでって…」


あやしいから、とはいえないので黙っていると、Lは電話口で小さくため息をついた。何よ、ため息つきたいのはこっちのほうだっつーの!ともいえるわけがなく、やっぱり私は黙ったまま、Lの言葉を待つ。


『…早く開けてください』
「え…なんで?」
『いいから、早くあけてください。…アナタが思うような変なものは入ってませんから』
「…え…」


思ってることをずばり当てられて少しドキッとしたけれど、そんな感覚も久し振りで少し嬉しくなった。…というのは勿論言わずに、目の前の荷物をじっと見つめる。…あけてください、なんていわれたら、あけないわけにはいかないけど…


『早く』


そうせかされて、仕方なくガムテープをはがした。一体何が出てくるんだろう…無駄にドキドキしながら、電話の向こうに尋ねる。


「ホントに変なもの入ってないんですよね」
『入ってません。だから早くあけてください』


上蓋に手をかける。…一体何が出てくるのか、やっぱり怖いけど、これ以上せかされるのもイヤだ。…勢いで蓋を開けて、恐る恐る中を覗き込む。…と。


「…ポインセチア?」
『ええ』


ダンボールの中に入っていたのは、赤いポインセチアの鉢植だった。


「…どうして、これを」
『その鉢植え、出してみてください」


私の質問を遮ってLが言うので、言葉のままに鉢植えを取り出してみる。…すると、ダンボールの底に封筒が入っている。…もしかして、手紙?取り上げて中身を開いてみると、そこにはワープロの文字で、「Merry X'mas 親愛なるさん」の文字。


「…プレゼント、ですか」
『そうです』
「…ありがとうございます」
『どういたしまして。…それよりその紙、裏を見てください』
「裏…?」


言われるまま紙を裏返す。…すると。


「『今日六時に伺います』…?」


読み上げてからはっとして時計を見上げた。…6時を5分ほど回っている。


「え…え?じゃあなに…今来てるんですか!?」
『来ています』


そうLが言うより早く、窓に駆け出した。カーテンを開けて窓の下を見ると…そこに、うっすら頭に雪が積もった黒い頭が見える。私はテーブルに放り出していた鍵を引っつかんで駆け出した。


「何で…!」
『? 何がですか?』
「何で来るんですか!」


エレベーターを待つのがわずらわしくて、非常階段を駆け下りた。声と足音が喧しく反響している。


『アナタを呼ぶのは忍びないと思ったので』
「そうじゃないでしょ!だからつまり、何の用があってきたのかってことです!」


階段を降りきって、自動ドアをくぐる。そこにはやっぱり、見慣れた猫背がいて、こちらを振り返りながら言った。


『……会いたかったからです』


ライトに照らされた雪が、私の頬にふわりと降りてきた。


「…何、それ」
「何といわれても…」
「Lは…私のこと嫌いなんじゃなかったの?」
「そんなこと一言も言ってません」
「だって…!アナタは足手まといだからって…抜けろっていったじゃない!」
「アナタを…危険にさらしたくなかったんです」


そういうLの声はいつもと同じで飄々としていた…けれど、肩は微かに震えているような気がした。それが寒さからなのは判っているけれど…つい、それ以上のものを期待してしまう。


「…入ってってください」


私がそういうと、Lはまるで驚いたかのように目を見開いた。…そんな反応にも、驚くほど心が温かくなっていく。


「…はい」


そう答えたLの手が私の手を強く、強く握った。




(ひねくれた魔法)


微妙なところで切れましたね。ちなみにこのLは実写じゃないほうのLです。








Merry X'mas!!
2008.12.25 thursday From aki mikami.