東京とロンドンってどれくらい離れてるっけ?そんなこと、考えつくしていたはずなのに。…クリスマスというのは、人を寂しくする作用があるらしい。
今日、12月25日は、聖なる夜、クリスマス。家族や恋人達が楽しい時間を過ごす特別な日…だけど、家族は死んでて、しかも恋人はロンドンにいる、って言う私には、クリスマスなんて無縁な話だ。
本当は一緒にすごすはずだったのだ。前々から約束もしていた。なのに、おととい急に向こうの警察に呼ばれたから言ってくるなんて言い出して、それっきり。ひょっとしてすぐ帰ってくるのかとも思ったけど、昨日も帰ってこなかったし…探は事件になると本当に周りが見えなくなるんだから。普段の紳士ぶりはどこへ行ったんだか。
「せっかく用意したケーキも…無駄になっちゃったなァ」
探がどうしても手作りが食べたいって言うから、仕方なく作ったチョコレートケーキ。…これも、食べてくれる人がいないんじゃどうしようもない。
テーブルに頬杖をつきながら、そんなことばかりを考えてしまう。…そんなネガティブな自分に、本気で嫌気がさす。
そんなとき、ピンポン、と呼び鈴がなった。…もしかして、探?心臓がドキドキと高鳴る。
駆け出しそうなのを抑えて、ゆっくり玄関に向かった。ドアを開けたら、最初になんて言ってやろうか。何も言わないで怒った方がいいだろうか。でも、ずっと待ってたと思われるのも癪だし…出来るだけ平静を装おう。
そんなふうに考えながら、玄関のドアを開けた。…けれど、そこにいたのは探ではなかった。
「あ、どうもー、宅急便です」
「………はい」
頭にカァッと血がのぼった。探が悪いわけじゃない、この人が悪いわけでもないのに、妙な怒りが込み上げてきた。
「すいません、コチラにサインお願いします」
と言って伝票を差し出す配達員。私はそれを受け取ると、いつもより幾分濃い筆圧でと書き付け、押し付けるように配達員に渡した。そのとき不審気な目で見られたけれど、それに対してつっかかればもっとヒドイことになる気がしてぐっと堪えた。
失礼します、と言って配達員は帰って行った。車のエンジン音が遠ざかるのを聞きながら、私は差出人の名前を見る。
―――「 白馬探 」
…わざわざロンドンから送ってきたんだろうか?…いや、ロンドンからの贈り物がこんなに早く届くわけない。ということは、こっちにいる間に、私のことを驚かそうとしたんだろう。…探ならやりそうなことだ。
割りと小さめの箱を開けると、中からはキレイに包装袋が出て来た。…私がいつも、好きだけど高くて買えないとぼやいているお店の袋だ。結んであるリボンをほどいて、袋の中身をのぞく。
「…これ」
ずっとほしかった財布。…探には教えてなかったはずなのに、形も色も、まさしく私がほしかったものだ。
…あんなにほしかったけど、…今はサッパリ嬉しさを感じられなかった。
だって…私がホントにほしいのは、財布でも他のプレゼントでもない。
探と一緒の時間。
「……こんなの…いらないよォ…ッ」
クリスマスに泣くなんて…バカみたい。
「…ホントに、いらない?」
泣きじゃくる私の耳に、いないはずの声が飛び込んできた。反射的に顔を上げると、そこには。
「…探」
「いらないかァ…読みを間違えたかな」
言葉の割に自信たっぷりの笑みを浮かべて、まっすぐに私を見つめる探。…涙は目の奥へと引っ込んでいった。
「なんでいるのよ…」
「急いで帰って来たんだ。のケーキを食べなきゃいけないからね」
「…何それ」
「僕のリクエストなんだから、僕が最初に食べなきゃダメだろ?それに…」
ポケットから出てきた探の手が、私の腕を掴んで引きよせる。ひんやりと冷たいコートの温度に体が震えたけれど、それ以上に探の肌の温かさが心地よい。
「が、寂しがるだろ」
自信たっぷりにそういうと、頬に緩やかなキスがおりてくる。いつもはちょっと気に障る言い方も、今日だけはいとおしくて仕方なかった。
「…バーカ」
もう寂しがってたよ。そんないつもは言わない言葉を言えるのは、今日がクリスマスだから。
いつもは強気な私だから、たまにはこんなのも、いいよね?
(弱気のプレゼント)
途中で出てくるお財布は私的にア○スイのお財布です。大好きなんだけど、なかなかお財布にお金をかけれません。ついついアニメのDVDとか買っちゃう(ぇ)。
2008.12.25 thursday From aki mikami.