夜、喉の渇きを覚えて水辺にやって来たは、何やら一点を見つめている殺生丸を見つけた。


何を見ているのだろう。気になったは、そっと殺生丸に駆け寄った。




椿





「殺生丸?何見てるの?」
「…」


夜の静寂を壊さない程度に静かに声をかける。殺生丸はそれに何も返さず、ただ静かに一点を見つめ続ける。その視線の先には、白い椿の花が、淡い月明かりに映し出されていた。


「椿…きれいだね」
「…ああ」



特に返事を期待していなかった言葉に返事が来たので、は驚いて殺生丸を見上げた。殺生丸の視線は相変わらず椿に注がれていて、彼が何を考えているのかはにはわからない。だが、その顔がどこか穏やかに見えるということは、悪い気持ちではないのだろう。


そもそもは、殺生丸がそんな風に花を愛でることがあるのだという事実に一番驚いていたが、それを言ってしまうときっと殺生丸が気分を害するだろうと思ったので、言わないことにした。


さて、なんといったものかと思考を巡らせると、ふと思い出したことがあったので、それをそのまま口に出してみることにした。



「殺生丸、白い椿の花言葉って、知ってる?」
「知らぬ」
「…ですよね」


そっけない返事に少しがっかりはしたものの、殺生丸が花言葉などに興味を持つはずもなかったと思い直したは、それ以上その話は広げないことにした。


とはいっても、それ以上椿に関する話題が出てくるわけでもないので、さて何を言ったものかと話題を捜していると、相変わらず椿の花を見つめたままの殺生丸が、静かに口を開いた。


「白い椿は、お前に似てきる気がする」


その言葉に、は驚いておもわず目を見開いた。そして、自分の知っている白い椿の花言葉と照らし合わせると、口元が緩んでしまうのを止められなかった。


「それ、ある意味告白だよ」
「…何?」
「白い椿の花言葉はね、『理想の愛』なんだって」
「…」


の言葉に、殺生丸は不満げに顔をしかめた。そんな殺生丸がおかしくて、はくすくす笑い出す。


「殺生丸、私が理想なんだ」
「うるさい」
「ごめんごめん」


謝りながら尚も笑っているに、殺生丸はこつんと彼女の頭を小突いた。するとそんな行動にはすっかり驚いて、殺生丸を見つめたまま硬直してしまう。


「何だ」
「……ううん、ちょっとびっくりしただけ」
「そうか」


を驚かせたことで満足したのだろうか、殺生丸の顔に先ほどまでの不満な様子はない。一方の方は、もっと怒るかもしれないと思っていたのに全く怒らない殺生丸にまだ驚いていたりする。


今日はいろんな殺生丸が見れたなぁ。
そう思って、目の前で咲き誇る椿に少し感謝した。









2020.11.20 friday 加筆、修正。