「…あ」
思わず声に出してしまったら、忙しそうな先生がうんざりしたような目を向けてきた。
「なんだ」
「…………何でもない」
「なんだその間は」
「だから何でもないってば」
言ったって仕方ないことだもん。それに先生、面倒事は勘弁してくれって顔してるし。
「何でもない奴はいきなり『あ』なんていわんぞ」
「んー……仕事の邪魔かと思って」
「既に邪魔だ、気にするな」
「ヒドッ!」
確かに邪魔かもしれないけど、そんなはっきり言わなくても!こっちは恋人が全然かまってくれなくて寂しい思いしてるって言うのに。
「……あのね、今日実は誕生日で…」
「は!?」
「えっ」
さらっと話を終わらせようとしたけど、先生は予想外に食いついてきた。
「なんでもっと早く言わないんだ!」
「だって今思い出したんだもん」
今までの人生で、誕生日なんて特別な日でも何でもなかったから。そう思っていたら、先生が椅子から立って私の目の前までやってきた。困ったような顔をして、ふわりと頭をなでてくれる。
「何も用意できなかったな」
「いーよ、抱きしめてくれれば」
特別なプレゼントなんていらない。先生と一緒にいられることが、私にとっては最高だから。
先生は小さく笑って、私を抱きしめてくれる。言ってもいないのにおでこにキスしてくれたり、優しくなでてくれたり。…それだけで十分プレゼントだよ。
(ついでに口にもしてくれるとうれしいな)
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