「……フゥ」


小説を広げていた明智さんがパタンと本を閉じたと思ったら、小さくため息をついた。


「ん?どーしたの明智さん?」
「どーしたのって…さっきから視線が痛いだが?」


じろりとこちらに視線を向ける明智さん。


「えっ、ご、ごめんなさい…」


確かに見てたけど、そんな睨まれるほど見ていたつもりはないんだけどな…。大体久しぶりの休みだっていうのに、明智さんってば本読んでばっかでかまってくれないし…。そりゃあゆっくり休みたいだろうケドさ。


そう思って、甘えないで頑張ってるのに。


「まったく…そんなに甘えたいのかな?」
「えッ!」


私、もしかして口に出てた?いやでもそんな、まさか…。あわてる私を見て、明智さんがにやりと笑った。…い、意地の悪い笑いッ!


「あっ、甘えるっていうか…」
「ん?なに?」


そういって覗き込んでくる明智さん。そ、そんな綺麗な顔を近づけられると…恥ずかしいんですけど!付き合ってもうずいぶんたつのに未だにこれにはなれない。明智さん、綺麗過ぎるから!キラキラしてるから!


「…………」
「何?」
「…………抱きしめて…ほしい、です」


言わされてる。そういう自覚はあるのに、つい口が動いてしまう。にっこり笑った明智さんが、言わなきゃ許さないと言ってるように見えたから。


私の言葉を聞いて、明智さんは益々にっこりと笑って、私の腕を引っ張って立たせた。


「知ってる」
「知ってるって!」
「顔を見ればわかるよ、それくらい」


私を抱きしめると、私が座っていた場所に腰を下ろす。…背中に感じる体温が心地よくて、でもなんだか釈然としなくて、首を後ろに傾ける。


「知ってて言わせたの?」
「もちろんただ言われた通りにするんじゃつまらないからね」
「バカ!」


そんな言葉も簡単に聞き流され、頬に軽いキスが降ってくる。…それが悔しくて、自分から唇を重ねると、少しだけ驚いた顔をして、またすぐに笑顔に戻って、私がしたのよりもっと甘い、優しいキスをくれる。


どうして明智さんは、私の心が読めるんだろうか。そして、どうしていつも私が一番ほしいものをくれるんだろう。そんな疑問も掻き消えるくらい、優しくて深いキス。


そして私は今日も、ただ明智さんに甘えるだけ。それだけでいいのかと過ぎる思いは、快楽の向こうに薄れていった。









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