こーくんを待ってるこの時間がすごく好き。


私は今、こーくんの家の前で空を見上げている。と言っても家は隣同士だから、私の家の前でもあるんだけど。キラキラ光る星の流れがすごくキレイで、両手をいっぱいに開いて伸ばした。


「なーにやってんだよ、人んちの前で」
「あ、こーくん!」


聞きなれた声に振り返る。丁度自転車から降りたところで、私は呆れ顔を見ながら隣を付いて歩く。


「私んちの前でもあるでしょ」
「へーへー、そーだな。で、オレ待ってたんだろ?何」
「コ・レ」


自転車を車庫に入れてシャッターを閉めたこーくんに、私は手に持っている冊子を見せ付けた。


「英語のワーク。どーせ後で借りようと思ってたでしょ」
「ったりめーじゃん」
「やっぱりー。エスパーちゃんがこーくんの行動を読んでわざわざ届けてやったんだゾー」
「おー、サンキュー」
「あーげない」
「んだよ」
「態度悪い」
「ハイハイ、アリガトウゴザイマスサマ」
「仕方ないなぁ、貸してあげましょう」


ワークを手渡すと、こーくんはそれで私の頭を3回も叩いてきた。ちょーしのんな!とか言われたけど、私はこーくんの方がちょーしのってるよ!と言い返してやった。


私たちの関係は、いわゆる幼なじみ。でも、幼なじみって言ってもかなり仲がいい方だと思う。家が隣同士なのもあるし、両親同士が仲良しっていうのもあるけど、私たち自身も兄弟みたいにして育ってきたから。高校に上がってから両親が共働きになって、私一人でいることが多くなっても、ときどきご飯を作ってくれたりする。


「じゃ、私戻るね」


散々からかわれたあとそういったら、こーくんは半分笑いながらあがってけよ、と言った。私のむくれた顔がよっぽどおかしかったらしい。


「え、いいよいいよ。こーくんこの後お風呂入って寝るでしょ。私邪魔じゃん」
「けどお前、また親いねんだろ?それに、お前手、そーとー冷たいぞ。どんだけ待ってたんだよ」
「え、そんなに待ってないけど…」


そんなに冷たいかなぁ。自分の手を見ながら開いたり閉じたり動かして見る。確かに今日はちょっと寒いし、夏本番では全然ないけど…なんて考えていると、こーくんが急にデコピンしてきて、更におでこをおさえる私をムリヤリひっぱった。


「いーから。言うこと聞いとけよ」
「……うん」


多分、ノートのお礼ってことなんだと思う。その気持ちがわかったら、少しだけ嬉しくなった。…けど。


私は前にまわって、こーくんのオデコに闘魂!デコピンを一発食らわしてやった。


「って、」
「仕返しー」
おま、」
「バーカ」


更にやり返そうとするこーくんをひらりとかわして玄関に滑りこむ。バカはお前だろ!と言ったときの顔が子供みたいで、思わず大きな笑いが漏れた。