おばさんがいれてくれたココアを飲みながら居間でくつろいでいたら、お風呂上りのこーくんが眠そうによたよたしながらやってきた。ほらやっぱり、邪魔じゃない。と思ったけど、私のために言ってくれたんだから、それは言わないことにする。


「孝介ゴハン食べる?」
「おー」
「今日はねー、牛丼だってー」
「おー」
「…眠そーだね」


受け答えする元気もないらしいこーくんは、ふらふら~と歩いてきて私の隣に座る。ぐでん、とテーブルによっかかってあーでもなくうーでもない声を出した。声と言うか、うめき、と言うか。


「お疲れさん、練習大変なんだね」
「おぉ、すっげーハード。大分慣れたケドな」
「最初の頃なんて帰ってきたらすぐ寝ちゃってたものね」
「風呂で寝たりしたし」
「え、それ危ない!」
「もうしねーよ。あーねみー」


重そうに頭をあげながらテーブルの上の箸を握る。牛丼が到着すると、かきこむような早さであっという間に一杯を食べ終えてしまった。おかわり、と丼を差し出してくるので、浮けとってキッチンのおばさんの所まで行って、ご飯を多めにと、上に山盛りになるくらいの具をのせていったら、やっぱりそれもものスゴいスピードでたいらげていく。


「食べますね、こーくん」
「最近はいっつもこうなのよー。毎日お米5合は炊くんだから」
「え、5合!」
「そうなの、で、そのうちの2合分くらいは全部孝介のお腹におさまっちゃうんだから」
「うわぁー…、こーくん大食い選手になれますねー」
「言っとっけど、一度に2合は食えねーからな。弁当含めて2合だぞ」


食べるのに夢中かと思ったらしっかり口を挟んできたので、おばさんと二人で肩をすくめて笑う。その間に牛丼はどんどんなくなって、私たちがお米の話を終える頃にはもう食べきってしまっていた。大食いと言うより早食いなのかもしれない。


こーくんは食器を台所に運んだあと、冷蔵庫をあけて中を漁った。で、野菜室からりんごと包丁を持ってきて、わたしの前に持ってきて、むーいて、と差し出す。当然私も頂く気だから、素直に包丁を手に取った。


「あ、そういえば、明日野球部いくね」


ばつん、と半分にして、その半分を更に半分にする。その4分の1の皮を剥いている途中でふっと思いだしてそう言ったら、なんで、と興味なさそうな返事が返ってきた。


「友達がね、見てみたいんだって。ホラ、いつも一緒にいるさ」
「あー、小泉?」
「うん」


皮の向けたりんごをこーくんに渡して自分用に皮を剥き始めたけど、こーくんが食べ終わるほうが早くて結局それも奪われてしまった。当のこーくんはへー、と気のない相槌を打つ。


「別に珍しくもねーぞ?」
「珍しいからいくわけじゃーないんだよねぇ…」
「じゃーなんで来んの」


男探し、かな。とは当然口に出せなくて、私はスポーツ好きなんだよ、と適等にごまかした。こーくんは納得出来なかったみたいで、わけわかんねーな、と呟いた。


恋愛、か。


友里はカレシほしいほしいっていうけど、私はその気持ちが良くわからない。それは私がこーくんを好きで、こーくんがこれだけ近くにいるからなんだけど。でも友里の立場にたってみてもやっぱり、そこまでカレシをほしがる理由がわからなかった。


でも私たちだって、まさかこのままでいられるわけがない。


私がこーくんを好きである以上、いつかはそう言う決断が待っているんだ。この関係がいつまでもなんて、そんなことありえるわけがない。それに、続けたいと思ってるわけじゃない。なのにやめられないのは、こーくんが私のことを思いやりすぎるからだと思う。一人が寂しいってわかっててこうやって家に入れてくれることとか、返ってきたワークに数学のノートはさまってたりすることとか。


「じゃ、そろそろホントに帰るね。もうすぐ親も帰ってくるし」


りんごは全部こーくんにあげて、包丁を台所に戻した。おばさんにおじゃましましたと頭を下げて玄関に向うと、その後ろをこーくんもついてくる。今日の氷オニの話とかをしながら二人で外に出て、ウチの前でバイバイをする。


やっぱり、こーくんは優しすぎる。


すぐ隣なのに、何も言わないで送ってくれるところとか、私が家に入るまでそこで待っててくれるところとか。