お昼の時間は、友里と二人でお弁当を食べる。友里が9組に来るときもあるし、私が8組に行くときもあるけど、最近は友里がこっちに来ることの方が多くなった。そして今日も、当然のように9組にやってきた友里は、私の正面に座って楽しそうに笑った。けど、その視線は時々、私ではなく野球部の4人に向いて、話の内容なんかを聞いてニヤニヤすることもあった。


「オレ、飲み物買って来るわ」


こーくんがそう言ったのが背中で聞こえた。友里の目がその姿を追いかける。その視線を思わず観察していると、当たり前だけど目が合ってしまって、瞬間的に気まずくなってしまった。私はキョロキョロと視線を泳がせる。別に悪いことをしたわけじゃないのに、罪悪感みたいなものを感じる。何気なく後ろを振り返ると、そこから見えるこーくんの机の中にサイフが入っているのが見えた。


「…あれ」
「どしたの、?」
「こーくん、サイフ忘れてる」
「え?…あ、ホントだ」
「届けてこよっと」


気まずさから逃げるように立ち上がる。こーくんの机に近づくと、集まっていた田島くんたちにどーしたと聞かれたから、こーくんサイフ忘れたみたいだよ、と答えた。バカだなー、と田島くんが言ったと同時に浜田さんがケラケラと笑い出す。


私はサイフを持って廊下に出た。購買に向う階段を駆け降りる。そんなに遅れて出た気もしないのに全然追いつけないって、こーくんはどれだけ歩くの早いんだろう。一階が見えるところまで来たら、ようやく背中が見えてきた。よくみたら、一段飛ばしで階段を降りている…通りで早いはずだ、と思いながら声をかけようとしたら、孝介!と女の子の声が聞こえて思わず足が止まった。


「おー、高屋。なに?」
「ちょっとさー、10円貸してくんない?」
「は?ヤダよ」
「ケチっ」
「一緒にいるんだから北見にもらえばいーだろ」
「持ってないんだってー。だからお願いっ!お金足りないんだ」
「あー。わーかったよ」


そう言ってこーくんはポケットを探ったけど、そこでサイフがないことに気がついた。あれ、といいながら何回もポケットを叩いている。私もそこでハッと気がついて、慌ててこーくんに駆け寄った。


「こーくん、忘れ物」
「うぉ、?」
「サイフ、机ん中に忘れてたよ」
「マジか、サンキュ」


受け取ったサイフから10円を出して女の子に手渡すと、その子はありがと、とこーくんに言って、私の方を睨みながら購買のおばちゃんの所に走っていった。…睨みながら、は、気のせいだと思いたい…けど、たぶん気のせいじゃない。


「…どーした?固まってんぞ」
「え、あ…いや、なんでもない…」
「そーか?ならいいけど」


何も知らないこーくんは、サイフから110円を出すと自販機に入れた。私はそれを半歩後ろで見ながら、なんだか居た堪れない気持ちになってこーくんに背を向ける。


なんでこんな気持ちになるんだろう。私はこーくんの恋人でも何でもないし、こーくんが誰かと仲がいいことは、いいことであるはずなのに。喜ぶどころか、今にも泣き出しそうな自分がいる。だからって、誰ともしゃべらないで、何ていえない。そんなこと言ったら、嫌われるに決まっているから。


「おい、お前も選べよ」


こーくんがそう言って、私に110円をよこした。顔色わりーな、と言われたけど、それを大丈夫と軽く流してお金を受け取る。こーくんは私の答えが不満だったみたいだけど、それ以上は何も言わなかった。


ぐらりと足元が揺らいだ気がした。