あまりにも眩暈がひどくて保健室に行ったら、少し血圧が低いけど休めば大丈夫だと言われて、5時間目は保健室のベットで休んでいた。家に帰るかとも聞かれたけど、大丈夫ですと断った。


家に帰ってもどうせ一人だ。一人になったら、いろんなことを悶々と考えるしかなくなるから、帰りたくなかった。


ひとりかぁ。考えていたら、ふと去年のことを思い出した。レクリエーションでくじ引きがあって、その景品で両手一杯の花火を持って帰った日。その日は両親が家にいなくて、こーくんの家にもおばさんしかいなくて、ひとりでやってしまおうかと思っていた。そうしたら、ちょうどこーくんが部活から帰ってきて、結局二人で花火をした。みんながいるときにしようかとも思ったけど、こーくんがやろう、と言ったから、二人ですることにした。それはたぶん、こーくんが私に気を使ってくれたんだと思う。二人きりも寂しいかと思ったけど、全然そんなことなくて、むしろみんなでやるよりすごく楽しかったのを覚えている。家に帰るときに、来年もまた二人でやろうねって無理やり約束させたっけ。


10分休みに教室に戻ると、友達みんなに囲まれて驚いた。どうしていなかったのかと詰め寄られて、貧血だと言ったらみんな心配そうに大丈夫かと聞いてくれた。


大丈夫だよ、と答えて席につくと、目の前にこーくんがやってきた。しかめっ面をしていて、怒っているように見える。


「保健室か?」
「うん、そーだよ。…貧血だって」
「…だから言ったろ、顔色悪いって」
「はは、こーくんの言う通りだったね」
「ムリすんなよ。お前体力ないんだから」
「うん、気をつけるね」


そう言うと、呆れたようにため息をついていきなりデコピンを喰らわされた。痛い!と抗議したら、何もしてないのにばーか、と言われたけど、…心配してくれてるのがわかったから、ありがとう、と言っておいた。


「ねー、こーくん」
「あ?なんだよ」
「あのさ、全然関係ないんだけど…去年さ、二人で花火したよね」
「あー、やったなー。で、いきなりなんだよ」
「別に、ただ思い出したんだけど…」
「お前がやりたいやりたいって駄々捏ねたんだっけ?」
「ち、違う!そんなことしてないよ!」
「あーはいはい。…で、今年もやるか?」
「え…いいの?」
「おー、約束したしな」
「……でも、今年は無理だと思う」
「は、なんで…
「なになに、二人どーしたの?」


突然聞こえた声に振り返る。そこには、私たちの顔を交互に見つめる友里が立っていた。笑っているようなそうじゃないような、探るような目をしている。


「おー小泉。何してんだよ」
「遊びにきたのー。それより何話してたの、ねー」
「去年二人で花火したって話だよ」
「え……二人で?」
「あぁ。で、今年もやるかっていってたことで…」
「今年も?!」


一瞬あからさまに驚いた友里だったけど、その顔がすぐに笑顔に戻って、ねぇ、と言った。…ひやりとした。私の予感が見事に的中する、そう確信した。


"二人で"は無理っていう、予感。


「二人で何てずるーい!私も混ぜてよ!」
「ずるいって言われてもなぁ…」
「それとも、二人きりじゃないとダメな理由でもあるわけ?」
「そんなのねーけど」
「なに、花火すんの?」


気まずい雰囲気が漂い始めたとき、集まっている私たちを見て田島くんが寄ってきた。明るい声がスパンと響く感じが、嫌な空気を断ち切ってくれる。田島くんの後ろから、さらに浜田さんもやってきた。


「あー、まぁ」
「オレもやりてぇー!仲間に入れて!」
「ハイハイオレもー!いいだろ泉、同中よしみってことで!」
「んー…」


困った目がこちらに向いたのがわかって、私は一瞬だけ、ホラね、って意味を込めて笑った。そうしたらちゃんと伝わったみたいで、こーくんはさらに困った顔になった。…けど、こうなったら仕方ないし、断る理由もない。


「だったらさ、どうせなら野球部のみんな誘ってやらない?部活帰りとかさ」


みんなで、と言うのは、せめてもの抵抗だった。人数が多ければ、友里がこーくんと話す機会も少なくなるかもしれない。とても小さな抵抗だけど、それくらいしか思い浮かばなかった。


「おぉー、それいーじゃん!決定な!」
「いつやんのいつ!」
「土曜日な、土曜日!次の日試合だからちょっと遅く始まるし」


嬉しそうに盛り上がる田島くんと浜田さん。友里は少し不満そうだったけど、笑いながら二人の会話に頷いていた。なんとか丸く収まりそうでよかった。ほっとしている私に、こーくんはみんなに聞こえないくらいの小声で、いーのか、と言った。私は、いいよ、とだけ答えてみんなの会話に参加する。


本当は二人でしたい。けど、こーくんが私との約束を大事にしてくれるってことだけで、すごく嬉しいから。…少しくらいは、我慢しないと。


そのあと、トイレに行っていた三橋くんも交えて詳しい話をしていたら、こーくんもまんざらじゃないみたいで、なんだか安心してしまった。