あれから色々考えた。そして、確かに気は進まないけど、嫌がってても仕方ない。だから、どうせなら精一杯楽しもう、と言う考えに至った。かなり張り切っている友里にテンションをあわせていれば、自分が本当はどう思っていたのかも忘れてしまえる気がした。


結局、今週の土曜日、野球部の練習が終わったあとに校門前に集合、みんなで河川敷に行くことになった。野球部全員って言うくらいだから、もちろんマネージャーの千代ちゃんも誘ってみたけど、家が遠いからムリだと言われてしまった。でも、そのかわり友達になれたからよしとする。


昼休みになって、いつものように友里がクラスにやってきた。と思ったら、早々にお弁当を机に置いて、今から会費集めに行こう!と言い出した。今じゃなくてもいいのにな、と思ったけど、断る理由もないし、私はいいよ、と言って席を立つ。


先にお金を集めて置こうというのは、私が友里に提案したことだった。野球部のみんなは忙しいから、花火を買いに行く時間がない。だから、私たちが早めに花火を買って、それからみんなと合流すればいい。ノリノリな友里はそれに特に反論も見せずすんなりOKしてくれたし、野球部のみんなにもこーくんを通してそう話がいっているはず。


まずはどこからいこうか、と言う相談をすることなく、私たちの足は一番遠い1組へ向かった。同じ階にいるのに、遠すぎてあまり行ったことがない。教室の前まで行って中をのぞくと、そこにケータイを(隠れて)いじっている巣山くんがいたので、ササッ、と忍び寄ってトントン、と肩を叩いた。


「うわっ、…なんださんか…」
「へへ、びっくりした?」
「はは、かなり。どーしたの、なんかあった?」
「あの、花火のお金集めにきたんだ」


私のかわりに、隣の友里が答えた。巣山くんは友里をはじめて見るみたいで、誰?と聞かれたので、一緒に花火に行く友達だよ、と紹介した。


「小泉友里です。よろしくね、巣山くん」
「オレ、巣山尚治。よろしく」
「あれー、これ、何の集団?」


突然割り込んできたのんびりした声に振り返ると、栄口くんがジュースの缶を持って立っていた。どうやら飲み物を買いに行ってたらしい。


「あのね、花火のお金集めにきたんだー」
「あ、…300円だっけ?」
「うん」
「うゎっちゃー…」


まずったー、みたいな顔をして、栄口くんは巣山くんの正面に座った。どうしたの、と聞いたら、栄口くんのかわりに巣山くんが笑って答えてくれる。


「今日お金忘れたんだってサ」
「え、ジュース買ってるじゃん」
「オレが金貸したんだよね。はい、300円」


サイフから出した300円を私に手渡して、赤くなって怒る栄口くんを笑う巣山くん。栄口くんの反応が面白くて、私も一緒に笑ったら、ちょっと凹んだみたいで慌てて笑いを堪える。


「じゃー、明日にでもこーくんに預けといてくれる?」
「うん、わかった…」


ああ、凹んでる凹んでる。その反応すら面白く思えて、笑いを堪えるのに必死になってたら、巣山くんがぶはっとふきだした。


ちゃんと会話を楽しめてる自分にとりあえずほっとして、左手の300円をポケットにしまった。