「ついでに9組の分も集めちゃおっか」
クラスに戻った友里がいきなりそう言って、楽しそうに笑った。
「え、今?」
「うん。だめ?」
「だめじゃないけど…ウチのクラスはこーくん後で集めてくれるって言ってたよ?」
「いーじゃんいーじゃん!どうせそれをうちらがもらうわけだし!」
嬉々としてこーくんたちに駆け寄っていく友里。…こーくんはたまに抜けてるけど、任されたらきちんとやってくれるし、あんまりうるさく言われるのは嫌がる方…なんだけど。
「どーもー。300円集めにきたよー」
「お、小泉。300円って花火のか?」
「そーそー」
「…から聞いてない?」
「え?」
「オレ今日買い物行くから、それから渡すって言ってあったんだけど」
隠してはいるけど、気分を悪くしたらしいこーくん。けど友里はそれに気付いていないみたいで、慌ててフォローに入る。
「ごめん、言うの忘れてた」
「ったく。お前って時々抜けてるよな」
「ゴメンゴメン」
怒られるかと思ったけど、案外軽く流してくれた。けど、友里の方がちょっと怒ったみたいで、ごめんね、と謝っておいた。
「なーなー、それよりさ!花火って河川敷でやるんだろー?」
何となく沈みかけた雰囲気を、田島くんの声が引き上げた。田島くんには、周りを明るくする力があると思う。
「うん、そうだよー!」
「一人300円しか集めなくてもよ、12人いたら3600円だぜ?かなりの量買えるよなー」
「楽しみだなー、三橋!」
「あ、う、うん…!」
田島くんが三橋くんと肩を組んで笑う。三橋くんは手に持ったお弁当箱をひっくり返しそうになった。それをみて、浜田さんと友里が大笑いをはじめる。
「…なぁ」
みんなのやり取りを見ていたら、こーくんが私の腕をつついた。
「何?」
「金、どんくらい集まった?」
「んーっと、栄口くんと水谷くんがまだかな。水谷くんはお金足りなくて、栄口くんはサイフ忘れたんだって」
と言っていたらあのときの栄口くんの顔を思い出して、また笑いが込み上げる。
「マジか。あいつらダッセーな。…って、何笑ってんだよ」
「いや、それがさ、栄口くん真っ赤になっちゃって… それが面白くてさっ」
「失礼だなーお前。栄口かっわいそー」
「だって、ほんっと面白くってさ…!」
「後で栄口にいっとこー」
「止めてよっ」
「あーはいはい。でさ、その金はオレが預かればいんだろ? 」
「うん。よくわかったねぇ」
「おめーの考えそうなことくらいわかるよ」
「え…?」
何気なくさらりと言った言葉に、心臓が飛び跳ねた。
大袈裟に考えすぎかもしれない…けど、こーくんが私を理解してくれてるってこと?私の方からだけじゃないってこと?
「? なんだよ」
「なーんでもなーい」
「なんかムカツクなー…」
こーくんがじろりと睨んできたけど、そんなこと気にしない。この嬉しさを、口に出すのはもったいないから。それに、言ったらそんなことないって否定されそうな気がする。例え勘違いだとしても、このまま勘違いしていたいから。
私は笑いを堪えながら、不審気なこーくんにそっぽを向いた。