河川敷に着いたら、先にたちが花火を広げて待っていた。コンビニの袋に噴水の水を入れて近くの遊具に引っ掛ける。全員で3600円分の大量の花火に飛びついたら、一回で3分の1ぐらいの量がなくなった(それは田島とか浜田とか水谷とかが5、6本ずつ持っていったから。かくいうオレもその一人)。が家から持ってきたチャッカマンでロウソクに火をつけて、とけたロウを下にたらしてロウソクを固定した。そのロウソクに12人全員で群がる…わけにもいかないので、オレはからチャッカマンを奪って自分の花火に一つだけ火をつけた。一つがつけばその火で他のもつけられる。


田島が5本の花火を持ってブンブン振り回す。それを花井があからさまに嫌がったので、オレと浜田とで挟みこんでおんなじことをしてやった。栄口と沖が大笑いしている。巣山は田島の後ろからひょいひょいと火のついた花火を差し出した。


花井の方も当然黙っているはずがなく、持っていた花火をこっちに向けてきたので、オレは一歩退いてそれをかわした。そのとき三橋とぶつかったので、浜田がキランと目を光らせて今度は三橋の方に花火を向ける。三橋はアワアワ逃げ回りながらそれをかわし、びくびく阿部の後ろに隠れたけど、阿部は大笑いしながら三橋を前に差し出した。


そんな感じで、気付いたら全員対花井と三橋みたいになっていて、二人をオニにして氷オニがはじまった。と小泉は最初離れて見ていたけど、後で小泉だけが入ってきた。の方はずっと離れて写真をとっていた。誘いにいこうかと思ったけどいつのまにか栄口と二人で話していたからやめた。


氷オニが一段楽したら、残っていた花火を始めた。と小泉が花火で絵を書いて写真にとっていた野を見て、今度は田島が訳のわからないお絵かきを始めた。


、お前ずっと写真ばっかとってんだろ」


田島のお絵かきを見て大爆笑しているに話し掛けたら、振り返りざまにいきなりシャッターを押された。


「うん、そーだよ。もうカメラ2個目ださー」
「変わってやるからよ。お前も花火してこいって」
「え、いーよ。こーくんやっといでよ」
「いーから貸せって」


から無理やりカメラを奪ってみんなの方に押し出した。困ったみたいにこっちを振り返るので、オレはその顔をカメラに納めてやった。


「わっ、サイッテー!」
「はは、ドアップだなドアップ」
「ばかー!」
「いーからホラ。花火なくなんぞ」


はオレにもう一度ばかと叫びながらみんなの方に走っていった。田島が残っている花火全部に火をつけようとかバカなことを言っている。…と、向こうからと入れ替わるように小泉がやってきて、オレの前で止まった。


「いーずみくん」
「どうした小泉」
「花火やらないのかなーと思って」
「今カメラ変わったばっかだからなー」
「そっか」
「お前はいーの?」
「うん。もういっぱいやったからね」


そう言って、小泉はオレの隣に並んだ。が浜田と二人で花火を振り回してるのが見える。



「…泉くんって、さ」


さっきより静かな声で、小泉が言った。


「なに?」
「泉くんって…のこと、好きなの?」
「……なんだよ、お前まで」
「え?」
「いや、こっちの話」
「そ。 …で、どーなの?」


どうなの、と聞かれても、そうだと答えるわけにもいかなくて、オレは前を向いたままわかんねぇ、と答えた。…違う、とは答えたくなかった。


「…わかんない、かぁ」


しゃがみ込んで、ぽつんと呟いた。その声が心臓に、脳に、ずんと響いた気がした。


「…なんだよ」
「否定しないんだなーって思って」
「……」
「だって、わかんないってことは、好きかもしれないってことでしょ」
「っ」
「この花火だって、ホントはふたりでするはずだったんだよね」
「それは…去年約束したから」
「ホントにそれだけ?」


立ち上がった小泉が、オレの方をじっと射抜いてきた。…オレはその視線から逃れるように、花火に火をつける巣山を見て、それだけだと答えた。自分に言い聞かせるために、ゆっくりと。


「…そっか」


小泉は呟いて、オレの手からカメラを奪った。なぜかごめんね、と言いながら、みんなの方へと走っていく。…オレは、その後ろ姿を見ながら土を踏みしめた。


本当は、約束のためだけじゃなかった。あいつと二人でいる時間が、少しでもほしいと思っていた。…今だって思ってるんだ。


何でこんな卑屈になっているのかと、ふと思った。あいつとは付き合えないから?思いを伝えられないから?…だからって、あいつを好きでいちゃいけないってわけじゃない。好きでいるのはオレの勝手で、あいつには関係ない。


はしゃいでいるの方に走った。花火がもうなくなりそうで、3本いっぺんに手にとる。その一つに火をつけながら、オレはあることを決意した。


今年もと二人で、花火をしよう。