坂田銀時



…わかってる。報われないことはわかってる。


いくら遠くで見てたって、お話できなきゃ意味がない。いくらチョコを渡したって、私だってわからなきゃ意味がない。


それでも、どんな形でもいいから渡したかったの。


私は今、万事屋銀ちゃんの前にいます。何をしているのかというと…大好きなあの人、万事屋銀ちゃんの責任者、坂田銀時さんに、こっそりバレンタインチョコを渡しに来たのだ。


なんでこっそりかって、それは私が極度の恥ずかしがりだから。坂田さんと直接話すことですらまともに出来ないのに、チョコなんて渡せるはずがないじゃない!


ちなみにこの『こっそりバレンタイン大作戦★』も、かれこれ3年目。大作戦といっても、玄関先に紙袋をそっと置いていくだけなんだけど…。


というわけで、今年も作戦、決行です!


まずは万事屋の下にあるスナックお登勢に人がいないか確認。この時間はお登勢さんも寝ているから多分大丈夫だけど、たまに店先の掃除をしていることがある。


今日は大丈夫、誰もいない!確認して、そっと階段を上る。出来るだけ音を立てないように…。お買い物で誰かが出てきたりしないように、すばやく済ませないと。忍者のようにすばやく静かに段を上り、玄関前にさっと紙袋を置く。そこでホッと一息ついて、額にじんわりにじむ汗を拭いた。…ふぅ、とりあえずは成功!


で、後は気付かれずに降りるだけだ。でも聞いてる感じ外に出てくる気配もないし、周りには人もいないし…余裕!そう思って、悠々階段を、一番下の段まで下りたとき…


「オイ」


ピキン、と体が凍りついた気がした。


「…なーんで帰っちゃうわけ?」


その声は…。カチコチの体でそろそろと振り返る。階段の上、玄関の前には、私を見下ろしている…


「さ、坂田さん…」
「あーあー、どうせなら直接渡してほしいなー」


さっき置いてきた紙袋を片手に、階段を下りてくる坂田さん。…私の頭は、何で気付いたのかという動揺と、坂田さんを目の前にした緊張でぐるぐるになっていた。


坂田さんは私の目の前まで来ると、にっこりと笑みを浮かべた。


「アンタだろ、毎年チョコくれてたの」
「…え、ええええええ、えええと」
「いやどもりすぎだろ。チョコくれてたのアンタだろーって聞いてんの。イエス?ノー?」
「え、えと、いい、イエス、…です」
「やっぱな」


サンキュー、といいながら頭をぽんぽん。それに声もあげられずに放心状態の私…。


「ずっと気になってたんだよなー。誰がくれてんのかなーって。…て、もしもしー?話聞いてる?」
「は、はいい!!」
「……そ、ならいいけど」


俺あまいもん大好きだからさー、と言葉を続ける坂田さん。…でも、私はそんな言葉も頭に入ってこなかった。何か言わなきゃ、せっかくだからなにかしゃべらなきゃ、そんなことばかりを考える。


「で、今年は何…
「あの、ごめんなさい!」
「……は?」
「あ、いや…ご迷惑だったかと」
「いやいやいや、今言ったじゃん楽しみにしてたって」
「え…?」
「やっぱ話聞いてないじゃん。まあいいけど…」


といって拗ねた顔をする坂田さん。不謹慎にもかわいいなんて思ってしまいながら、ごめんなさいと頭を下げる。…すると、気にすんな、とまた頭をぽんぽん。


「ッ…!」
「お、悪ィ、いやだった?」
「ぜ、全然!」
「そ。じゃー…とりあえずお茶してけよ」
「え!そんな!滅相もない!」
「なんでよ。なんか用事あんの?」
「い、いえ…ありませんけど…」
「ならいーじゃん」
「で、でも…坂田さんのご迷惑に…」
「ならないって、俺が招待してんだから。…っつーことでいきましょー」


そういって階段を上りかけたけど、途中でくるりと振り返る。何かと思って少し緊張していると、あのさ、と言われて…その目が、すごく意地悪な気がした。


「坂田さんじゃなくて銀さんな」
「え…?」
「坂田さんなんて冷たい呼び方やめよーや。銀さんか銀ちゃん。どっちかなー」
「え…えと」
「なに、やだ?」
「い、いえ、やじゃないですけど…!」
「じゃ、坂田さんはなしな」
「は、はい…銀さん」
「よしよし」


満足そうに頷くと、また階段を上っていく。…それをその場でじっと見守っていると、上りきったところで振り返って、早く来いと手招きされる。


「は、はい!」


駆け上がって銀さんの前に止まると、なぜか笑われてしまう。目を合わせると、左手で戸を開けながら、言った。


「いらっしゃーい、ちゃん」









(作戦成功)


オマケ。


「あの…名前」
「ん?」
「し、知って…」
「あー、俺ね、女の子の名前覚えるの得意だから」
「でも…話したこと、あんまないのに…」
「客と店員だもんなー。っていうかそんなキャラだったわけ?」
「せ、接客だと思ったら…普通にしゃべれるから…」
「なるほどな。…ま、とにかくよろしく」









…ヒロインは御茶屋のアルバイト、という設定。うーん…自分とまったく違うキャラは動かし辛い…。


…ちなみに、あまりにひどすぎて没になったねたがありまして、それをSSのSSくらいな短さでオマケ的にのせたいと思います。では


オマケ。2


ー!』


玄関から聞こえた声に、私はテレビを消して立ち上がった。ここに来るなんて大体めんどくさい銀髪男だけだが、今日はずいぶんとかわいい声のお客さんだ。一人で来るなんて珍しいなと思いながら、玄関のドアを開けた。


そこにいたのはやっぱり神楽ちゃん。…でも、残念ながら神楽ちゃんだけじゃない。


「へィー!元気してるかーィ?」
「YOさーん!遊びにきたYOー!」
「…………」


「……、この哀れな男たちに、チョコを」


神楽ちゃんの、祈りにも似た声が響いた。








…ここまで書いて、「ここでオチてんじゃん!」と思ってやめました。ギャグ万歳。









Happy valentine!!
2009.02.14 saturday From aki mikami.