白馬探



(Blue in the waterのヒロイン)


学校中がありえないくらいあまーい空気で包まれているというのに…私は1人寂しく携帯電話とぽちぽちにらめっこ。それもメールじゃなくゲーム…ホント、悲しくなってくる。


私にだって一応彼氏はいる。だからバレンタインチョコをあげる相手くらいいるのに、…その相手が、近くにいないんだからどうしようもない。


私の彼氏…白馬探は、前はこの学校に通っていた。けど、この間ロンドンに戻ってしまって、結局私たちは遠距離恋愛。イベントとか大型連休とか、何かあれば帰ってきてくれるけど…やっぱり、さすがの探もバレンタインまでは帰ってこないみたいだ。


ー、大丈夫?」


青子が私を覗き込んでそういった。私はディスプレイを見たままうん、と答える。…まァ、嘘だけど。


大丈夫なわけないじゃん。寂しいに決まってるじゃん。だんなが幼馴染でいつでもそばにいる青子にはこの気持ちはわからない。…ホント、うらやましい。


「オウー!お前何落ち込んでんだよ!そんな顔してたらキモいぜー?」
「……黒羽…私今すっごく機嫌悪いの話しかけないでくれる?」
「…はい、ごめんなさい」


やかましい奴は私のひとにらみでさっさと退散していった。…ったく、ああやってやたらと絡んでくるのはいいときはいいけどウザイときはホントにウザイ。いいからアンタは黙って怪盗キッドの記事読んでニヤニヤしてろ!


ー、そんなんなら電話かけてみればいいじゃん、白馬君に」
「いいよ。今ロンドン何時かわかんないし。それに出てくれなかったらそれこそショック2倍だし」
「そうかもしれないけど…」
「いいんだーべつに。バレンタインなんてどうせお菓子会社によって作られた悪しき風習だし。私本命意外にあげる気ないし」
「んー…じゃあ郵送するとか」
「住所知らないもん」
「え、そうなの!?」
「電話で連絡取れるからって教えてもらってないの。しかもその電話だってこっちからかけることはほとんどなし。たまーに向こうからかかってきたと思ったら事件が何だのかんだのとか、キッドは最近どうだとかそんなことばっかり」
「そ、そうなんだ…」
「なんかね。もう最近愛されてんのか不安になってきたわ。前はあんだけ毎日しつこく付きまとってたのにね」
「そんなこといっちゃだめだよ!白馬くんきっと忙しいだけだって!ね!…あ」
「ん?何よ」
「あ、いや…あの…」


そんな様子に携帯から目を放して青子を見ると、引きつった笑いでドアのほうを見ている。しかも青子だけじゃなく、黒羽まで。その視線をたどって顔を上げると、そこには。


「…へえ、そんな風に思ってたんだ」


にっこり微笑んだ、我が彼氏がいた。


「え… えええええええええ!」
、そんな大きな声を出しては他のクラスに迷惑だろ」
「いや今休み時間だから関係ないし。っつーかなんで来てんの!?まだこれから授業あるっつーの!」
「わかってるよ。でもどうしても会いたくてね」
「は…はァ…」
「…で、チョコは?」
「……え?」
「チョコ。せっかく来たんだから是非受け取らないと」
「……」


満面の笑みで手を差し出してくる探。…でも、ねェ。帰ってこないって言ってたのに。


「…あるわけないじゃん」
「え…?」
「だって、帰る予定はないねって言ってたじゃん。…そりゃあ帰ってくるんなら作るつもりだったけどさ…」
「なるほど…そうだね」
「そうだよ。…まったくもう」
「では、今から作ってください」
「……え?」
「せっかく来たんだから、受け取らないことには帰れないよ。…というわけで、先生!」


と言って探が振り返った先には、いつの間にか呆然と立っている先生の姿。…ってか、いたんならどうにかしてくれても…!!


、お借りしていきます。それでは」


そういって私のかばんを勝手に持って歩き出す。それを呆然と見ていたら、途中で戻ってきて腕を引っ張られて、そのままコートを回収して教室から連れ出された。


「いやいやいや!お借りしますっておかしいでしょ!授業があああ!」
「授業なんて受けなくても僕が教えてあげるよ」
「いや、そういう問題じゃないでしょ!後で先生に怒られるっつーの!」
「一緒に怒られてあげるから」
「いるかああ!」
、静かにしないと他のクラスに迷惑だよ」
「う、ごめん。…って、あんたのこの行動の方がよっぽど…」



急に真剣な声になって振り返る探。それがあまりに突然で思わず黙り込むと、ぎゅっと強く抱きしめられた。


「ちょ…何?」
「うーん…なんでもない」
「なんでもなくないよ。…どうしたの、甘えんぼ?」
「そうかも。…なんかね、すごく会いたかった」


そういって、髪を梳くように頭を包まれる。…ざわっとした感覚が、背中を走り抜けた。


「…探、ここ学校」
「大丈夫。誰も見てないから」
「そういう問題じゃないでしょ」
「……じゃあキスだけ」


いたずらっ子のように笑った後、軽く唇が触れる。久しぶりのその感覚が心地よくて、さっきまでのぎすぎすした心が嘘のように溶かされていく。


「…


耳元で、甘い声がささやいた。









(一言プレゼント)


オマケ。


「…そうだ」
「ん?」
「僕からもプレゼントがあるんだ」
「そうなの?」
「ああ。チョコじゃないけどね」
「でも…バレンタインなのに」
「向こうのバレンタインは男女関係ないって、聞いたことない?」
「…あるかも」
「まあ、気に入ってくれるかわからないけど…」
「……大丈夫」
「え?」
「気に入るよ」
「……、素直になったね」
「う、ううう、うるさい!」
「はは、やっぱりだめかな?」
「うっせーバーカ!」









遠距離恋愛なんてしたことないなァ。一度経験してみたい気もする…。なんていったら全国の遠恋で悩んでいる人に失礼ですね。ごめんなさい。








Happy valentine!!
2009.02.14 saturday From aki mikami.