ブラックジャック



『私と仕事、どっちが大事なの!』


…そんな言葉、いったいどこで覚えてきたんだか…。


今日、ここに来る前にに言われた言葉だ。ちなみにこことは依頼人の家。金はいくらでも積むからどうしても極秘で治療してほしいと言われ、わざわざ赴いているというわけだが…


あんなことを言われたくらいでミスをするなんてことはないが、さっきからどうにも気が散って仕方がない。今まではあんなこと、言わなかったのに。


『うそうそ、冗談だよ!』


冗談って…目が本気だっただろ。そんな言葉をかけることすら出来ないくらいは真剣だった…と思う。


診断を終えて帰り支度をしていると、前払いだと茶封筒を手渡された。…厚みは十分。それを受け取って懐にしまうと、またお願いします、と付き人らしき男が言う。


「金さえもらえればね」


俺はそうとだけ答えてかばんのチャックを閉めた。それをもって立ち上がり玄関に向かうと、途中にある部屋から小さく音が漏れている。…どうやら子供部屋らしい。


『今年は「逆チョコ!」』


聞こえてきたのは聞き覚えのあるそんなCM。…家で聞いているときはバレンタインなんて悪しき風習だと気にも留めていなかったが…


「……」


俺は今後の予定が何だとか言う付き人との話を適当に終わらせてその場を後にした。









*









「おかりなさーい!」
「おかえりなちゃーい!」


そういって俺を出迎えたとピノコは、ずいぶん楽しそうな顔をしていた。なにかあったのかとたずねれば、いいから早く来て、と腕を引っ張られる。靴を適当に脱いで引っ張られるままに歩くと、リビングのテーブルの上にはなにやら豪華なケーキ。


「2人で作ったんだ!特性チョコレートケーキ!」
「しゅごいでちょー!ほとんどあたちがつくったんらかや!」
「ちょっとピノコー!私だってお手伝いがんばったでしょー!」
「生クイーム泡らてたらけれちょー!」
「トッピングだって手伝ったじゃん!」
「あー、お前たち」


いい加減うるさい言い合いをさえぎると、2人して怒った表情のままこっちを振り返った。…血のつながりなんてないくせに、驚くほどそっくりな反応だ。


「…コレ」


持ってきた紙袋を差し出すと、怒った顔は一気にきょとんとした表情になった。二人とも目が点になっている。…本当に、そっくりだ。


「…なぁに、コレ?」
「あたちたちに?」
「ああ」
「も、もちかちて!」
「逆チョコ!?」


紙袋を高く掲げて、うわあああ!!と大声を上げながらそこらを走り回る2人。嬉しさの表現なんだろうが…うるさい。さすがに仕事終わりの頭には答える大声だ。俺は軽く頭を抑えながら椅子に座った。


ケーキには二枚のチョコレートプレートがのっていて、それぞれにピノコと、2人からのメッセージが書かれている。その内容が2人してまったく同じなもんだから、呆れを通り越していっそ笑えた。


『先生、大好きだよ!』


「…ホントに、飽きないな」


つぶやく俺の目の前には、チョコを口に含んで幸せそうに笑う二人がいた。









(恋にはまだ早い)


オマケ。


「それにしても…」
「…ん?」
「こんなにでかいの、俺一人では食えんぞ」
「えー!せっかく作ったのにー!」
「食べてくえなきゃいやー!」
「…いやって…無理なものはむりだ!」
「えー!先生のばかー!」
「いじわゆー!」
「……はァ」









夢じゃない…。BJとラブラブになるにはピノコという最初にして最大の壁を越えないと…。








Happy valentine!!
2009.02.14 saturday From aki mikami.