手塚国光
2年生設定。
「今年もすごいねー」
帰り道、そんな風に俺を呼び止めたのは女子テニス部部長のだった。
「…今帰りか」
「そうだよー」
「女子テニスはもっと早く終わったんじゃないのか?」
「自主練してたの。えらいでしょ」
「ああ」
「で、手塚は今終わったの?」
「そうだ」
「じゃあ、一緒に帰ろっか」
そういって、は先に歩き出した。俺はそれを追いかけていつものように隣に並ぶ。
とは、終わりの時間が一緒になると、よくこうして一緒に帰る。家の方向も一緒だし、なにより夜に女の子1人で歩くのは危険だ。それにとなら、話をするにも気を使わないでいられる。
ちなみに、さっきがすごいといったのは多分、俺の持っている紙袋のことだ。…バレンタインのチョコレート。去年よりも量が増えている気がする。
「そのチョコどうするのー?」
前を向いたまま、目だけを袋に向けてそういった。
「一応…食べるつもりだ」
「それ全部?律儀だねー」
「せっかくもらったものを無碍にするわけには行かない」
「じゃあホワイトデーも全部お返しするの?」
「…わかってる分は、な」
「へー…ホント、まじめだねェ」
そういって軽くステップすると、俺を振り返って立ち止まる。背にした街灯のせいで、表情が伺えない。
「でも、甘いもの嫌いじゃなかったっけ?」
「嫌いというか…得意ではないが」
「だよね。…ならさ、やめちゃいなよ、食べるの」
「…?」
「どうせ本命じゃないんでしょ、どれもコレも」
「…それは」
「本命じゃないのに受け取るなんておかしいよ。…そんなの見栄張ってチョコの個数競ってるそこら辺のちゃらい男と一緒じゃん」
そう言い放って背中を向けた。俺は、その言葉に怒りよりも、驚きを感じていた。…が、こんな風に怒りを表したことなんて、なかったから。
「…何を怒ってるんだ」
「怒ってないよ」
「怒ってるだろう」
「怒ってないってば。何で手塚のことで私が怒んなきゃいけないわけ」
「それを聞きたいのは俺のほうだ」
「だから、怒ってないってば!」
声を荒げた。…しんと静かな空間に、僅かに木霊する。そのせいか、語尾が震えているような気がした。
「…よくわからないが……すまない」
「ッ…だから」
「」
肩を掴んでこちらに向ける。だがは首を傾け俺から顔を背けようとする。…それでも、一瞬見えた横顔には確かに、…涙の後が残っていた。
「…、お前」
「……」
「お前、泣いて…?」
「……」
「どうして…」
「バカ…決まってんじゃん。私これでも女の子だよ…?女の子がこんなことで泣くなんて…ひとつしかないじゃん」
今度は本当に、気のせいではなく声が震えていた。
はじめてみるの泣き顔に、俺はどうしたらいいかわからなかった。気の利いた言葉の一つもかけてやりたいが、そんなもの持ち合わせていない。だが、これ以上泣いてほしくない。…どうしたらは泣き止む?
「……」
「……」
は黙ったまま俯いていた。…背中が微かに震えている。
俺は紙袋を地面に置いた。中身が少し散らばったが、放ってに近づく。…そして、震える背中を引き寄せ、抱きしめた。
「ッ…!」
驚いて振り返る。だが、抵抗はしない。
「すまない」
「……何が」
「お前を泣き止ませたいと思ったんだが…いい方法が浮かばなくて…」
「……手塚って、やっぱバカ」
「え?」
「コレ、最善の方法」
そういって、俺の腕に軽く手を添える。その手はすっかり冷えていて、少し"切ない"気持ちになった。
「…手塚」
「なんだ…?」
「私のもあるんだけど…いる?」
「ん…?」
「バレンタイン。…チョコじゃないけど。あんまり甘くないお菓子」
「……いる」
そう答えると、小さく笑う。…手に持っていたかばんを開けて、そこから薄い緑色の小さい袋を取り出す。
腕の中で回って、恥ずかしそうに額で俺に寄りかかった。
「……泣き止んだか?」
「うん」
「そうか…」
「うん…ありがとね」
そういってが笑うので、俺は腕を解いて、袋を受け取った。それをかばんにしまって、すっかり冷えているの手を握る。
「…手塚」
「冷たいな」
「手袋してないからね」
「……繋いで帰るか」
「え?」
「いやか?」
「いやじゃない…けど…」
驚いた顔を向ける。だがすぐに笑顔になって、うん、と嬉しそうに頷いた。
(本命一本)
オマケ。
「…ねえ」
「なんだ」
「その大量のチョコだけど」
「え?…ああ、これか」
「たべるの、手伝っていいかな?」
「…………え」
「え、まずい?」
「いや、そういうわけじゃないが…食べたいのか?」
「甘いもの大好きだから。だめかな」
「…だめじゃないが」
「じゃあ決まりね!」
「え、 …………」
うーん…なんか微妙なお話。
学校内にアイドル的な人っていました?私見たことないんですけど…。そこまでカッコいい人が周りにいなかった気がします(失礼)。
Happy valentine!!
2009.02.14 saturday From aki mikami.