今日の晩御飯は何にしようかと考えながら帰って来た殺生丸は、小さな異変が起こっていることに気が付いた。
荷物を部屋に置くことも忘れてリビングに入ると、キッチンに立っているが見えた。
「…何をしている」
「え?ああ、殺生丸。お帰りなさい」
「…あぁ。 それより何をしている」
「何って、料理だけど…」
3年生で、家庭学習期間に入っているからこうして昼に家にいても何も不思議ではない。だが、今まで料理は殺生丸の仕事ではあまりキッチンに立ったことがなかった。だから殺生丸はが料理が出来ないと決め付けていたが、実はそう言うわけではない。殺生丸と暮らしはじめるより以前はまったく料理をしない義母と父の料理をが作っていたので、殺生丸ほどではなくてもそれなりに料理が上手い部類に入る。
といっても、殺生丸が驚いているのは料理についてだけではない。
家の中を改めて見回す。窓ガラスはぴかぴかで、テレビや電化製品には塵一つついておらず、テーブルには綺麗に花が飾ってあり、ベランダには洗濯物がはためいている。
「…掃除したのか?」
「うんー。やっぱり気づいちゃった?」
「これだけ気合いを入れてやれば誰でも気が付くだろう」
「あはは。結構綺麗になったでしょ?」
「そうだな」
テーブルの上に荷物を置くと、の背中を見つめた。普段は立場が逆なだけに、不思議な気分になる。完成させたらしくコンロの火を消したが、鍋と鍋敷を持ってやってくる。殺生丸はテーブルのスペースをあけると、そこに置かれた鍋の蓋をあけた。
「…カレーか」
「うん!CMでやってたでしょ?バレンタインはカレー♪って。いつもご苦労様なパパにカレーを作ってあげるんだよ。黒木さんが言ってたじゃない」
そう言って嬉しそうに笑うと、食器棚からカレー皿を二つ取り出してご飯をよそった。
「…パパ」
「ん?何?」
「私は"パパ"か」
「っ!!あ、や、違うよ!そう言うわけじゃ…」
ないだろうな、と殺生丸は心で思って、小さくため息をついた。まさかが意識してそんなことを言うわけがない。
「…」
「う、あ、は…はい」
皿をテーブルに置いて恥ずかしそうに俯くを、殺生丸はぐっと引っ張って引き寄せた。そして、少し強引に唇を重ねる。それから少しだけ離れて顔をのぞきこむと、は赤くなっていた。
「…殺生丸っ」
「食べるぞ」
「えっ、う、あ、はい…って、殺生丸! もう!」
どうやっても彼には勝てない。それがわかっているから、それ以上の抵抗はしなかった。殺生丸の向い側に座ると、意地の悪い笑みと目があって、小さく舌を出すと額を叩かれた。
5年後の二人は、パパとママになれているだろうか。そんなことを、はぼんやり考えていた。
2007.02.16 friday From aki mikami.