浅葱と付き合い始めて早5年。ちなみに知り合ってから数えると20年近く。この時期には必ず頭が痛くなる。
…それはもちろんあれだ。
―――2/14 St.vaientine's Day
…基本的にイベント好きな私は知り合いの男全員にチョコを配って歩く。もちろん本命と義理の区別はつけているし、誰にチョコをあげようが浅葱がとやかく言ったりはしない。
そう、私が問題にしているのはそんなことじゃない。
何をあげたらいいのかわからないのだ。
もしかしたら極一般的な悩みかもしれない。と言うかきっとそうなんだろう。甘い物が嫌いな男なんて世の中に五万といるだろうから。
でも…ねぇ。
20年もバレンタインがやってくると、そろそろ…と言うかもう随分前からネタ切れなわけだ。今まではビターチョコだったりパイだったり時には手袋だったり。ちゃんと今でも使ってくれてますよ有り難いですよ。でもわがままなんですよ浅葱は!チョコはビターじゃなくても食べれるとか、アップルパイよりパンプキンパイがいいとか、毛糸の色は黒より深緑が好きだとか…!!
こちとらもうお手上げです。
浅葱さん 恋人にすら 容赦なし
うーん、わびさび。
そんなわけでいっそあげなくてもいいかなって思ったこともある。けどそれはそれで怒るんですよあいつは…!!
つまり私は今物凄く悩んでいる。
義理チョコは毎年チロルの詰め合わせと決まってるから悩むことはない。だからこそ、本命に困る。
…というわけなので。
「…今年は何がほしい、浅葱?」
「…………そう言うのって聞かないのが原則だと思う」
「でもー。浅葱さまは厳しいので私はもうお手上げなのです」
「別になんでもいいよ」
「そういわれると激しく困ります」
「だって…別に甘いもの食べたくないし」
まぁ…そうだろうとは思うよ。浅葱だもんね。でもなんでもいいから言ってよー。
「別にもらったらなんでも食べるよ」
「でも文句言うじゃん」
「気に食わないものを素直に食べるのは難しいしね」
「……殴りたい」
「殴りかえされてもいいならいいよ」
「…ん、遠慮」
「…ま、適当に頑張んな」
と投げやりな言葉を残して、浅葱は私から視線を外した。テーブルの上のリモコンでチャンネルをパチパチ切り換える。
「…お」
と浅葱が呟いて手を止めた。…聞き覚えのあるメロディが流れる。
…これはもしや。
「……お料理行進曲?」
「うん。今キテレツの再放送してるんだね」
と言いながら食いいるように画面を見つめる。…実は浅葱、キテレツ好きだったとか?いろんな意味でビックリだ。いや、私もキテレツは好きなんだけども。
いーざすーすーめーやー キッチーン♪
めーざすーはー じゃーがーいーもー♪
次はゆでるんですよね。ゆでたら皮を剥いてぐにぐにとつぶすんですよね。勇気をだして、たまねぎが目に染みても涙こらえてみじん切りするんですよね。で、ミンチを炒めるんですよね。塩コショウは忘れずに。で、それをポテトと混ぜたら丸く握って、小麦粉と卵とパン粉をまぶしてあげれば出来上がりだけどキャベツの千切りを忘れちゃだめなんですよね。
子どもの頃「この歌の通りにつくったら本当にコロッケできるのー?」と親に聞いたことがあります。できるに決まってるでしょ、と答えた親に「つくってー」と頼んだことがあります。そして大人になってから本当にこの歌の通りにコロッケを作ったことがあります。文句ありますか?
「…ねぇ」
「はいはいなぁに?」
「……この歌の通りにつくったら本当にコロッケできるの?」
「…………………ん?」
今
小 学 生 の よ う な 疑 問 を ぶ つ け た の は こ い つ か ?
仮にも一人暮らしで自炊してる男が何を仰るやら。そんな"あの萩間でも"わかるようなことを…。
「で、出来ますけども」
「そうなんだ」
さして興味もなさそうですけど。そして自分の発言のサプライズさにまったく気付いてなさそうですけど。この人はこんなに天然な人間だったか。
「…じゃあ、作って」
「はぁ…うん、はい、わかりました………って、は?!」
「だから、これの通りにコロッケ作って。どうせ一度作ったことあるだろ、のことだから」
「まぁ…ありますけど…でも…」
食 べ た い の か ?
「それがバレンタインでいいよ」
「え? あ…うん…まぁ、はい、OKです」
本人がそれでいいって言ってるんだから、もうそれでいいよ。っていうか食べたいみたいだし。テレビの中でキテレツ君がまた新しく何か作ったらしい。それを結構真剣に見てる浅葱って不思議。
もうこうなったらハート型のコロッケとか作ってやる。あ、でも上手く作れるかな。途中で面倒くさくなったりしないだろうか。結構不安だけどがんばろう。
おいしくないって文句言われたらコロッケ口に突っ込んでやる。
でも何だかんだ言いながらちゃんと全部食べてくれるんだよね。
2007.02.16 friday From aki mikami.
(2日遅れのバレンタイン)